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風のごとく駆け抜けて

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「いや、あれは……。ほら、ああ言う場面になったら誰だってそうなるだろ。しかも、あのタイミングじゃ仕方ないと言うか」

「何言ってるんですか、永野先生。やろうと思っても出来ませんよぉ。あんなこと」
紗耶が椅子から立ち上がり、両手で拳を作りながら永野先生にグッと迫る。

「いや、ほんと。それ以上は辞めてくれ。正直忘れたい過去なんだ」
永野先生が困った顔をする。

「微妙に話がかみ合ってない」
久美子先輩が、不思議そうに首を傾げる。

「いや、だからあのインタビューは無かったことにしたいんだよ。私は」
お願いだから、分かってくれよ。
と言いたそうに永野先生は大声で言う。

「インタビュー?」
みんなが一斉に不思議そうな顔をする。
その行動に永野先生も何か気付いたらしい。

「ちょっと待て。お前らなんの話をしてるんだ」
「いえ、ですから……トップと55秒差から大逆転した綾子先生の走りに感動してやる気が出たって話ですよ。てか、インタビューって?」

「え……いや、なんでもないぞ」
あきらかに永野先生は動揺していた。
世間ではこう言う場面を何と言うのだろうか。

墓穴を掘る?

と、突然DVDが再生を始める。
どうやら晴美が操作したようだ。

手にはしっかりとリモコンが握られていた。

「それでは、5区で見事な区間新。優勝のゴールテープを切った永野綾子さんにインタビューです。おめでとうございます。タスキを貰った時に、何を思ってスタートされましたか?」

「はい。タスキを……受け取った……時は……」
喋り出すと同時に泣き出す、当時高校3年生の永野先生。

まぁ、ここまでは誰にだってあるだろう。
私だって同じ場面に立たされたら泣く自信がある。

が、ここからがすごかった。

なんと、永野先生はその場で本気で泣き出してしまった。

泣きながら喋るのではなく、ただひたすらに泣いていた。
それも、小さな子供が泣いているような感じでわんわんと……。

これにはさすがのアナウンサーも、困り気味になっている。

見るに見かねた監督が合図をすると、永野先生の隣にいた部員が永野先生を壇上からそっと降ろす。

「まさに言葉に出来ない思いと言ったところなのでしょうね。それでは、阿部監督、改めて優勝の思いをお聞かせください」
アナウンサーの見事なフォローでどうにか、上手くまとまった感じだ。

「意外に綾子先生って涙もろいんですね」
「いや、さすがにこれはどうかと……」
葵先輩がフォローするも麻子が手厳しい一言を言う。
言われた永野先生は、顔を真っ赤にしていた。