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Lipstick

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Perfect Day



 女の子は公園の向かいにあるお地蔵さんの所までやって来ていた。
 でも、お地蔵さんの前でウロウロしていて一向に公園の中に入ろうとはしない。公園が見えてくると期待に溢れていた心に不安が芽生えてきたようで、本当に奇麗になったのかが心配になってしまっていた。
 ここからじゃみんなが公園にいるのかどうかは分からない。公園に入るのをやめて帰ろうかとも考えはじめていたが、すぐ隣の店頭にあった鏡でもう一度だけ綺麗な自分を確認してみることにした。

 そうして女の子がショーウィンドウの大きな鏡を覗いていると、ようやく少女が追いついて来た。

「だめじゃない ホントにもう…

    まだ 公園には入っていないの?

  __そうみたい

「どうして?


  __しらないわ そんなの…

「家でまってなくちゃ  さぁ 帰ろ

  __でもね…

「どうしたの?

  __

    わたし…




「 そうなんだ

  __うん

 二人はショーウィンドウの鏡で得意の微笑みを確認してみた。二人の胸にはもう一度、期待のような不思議な感情が膨らみはじめてきた。

「ワタシがみんなに会いにいこっか?

  __いまから?

「いいよ

  __ほんとに♪

「ワクワクしちゃう☆

  __みんな 喜ぶよ

「いってくるね♪

  __がんばれっ!

「待っててね

  __そうよ きれいだもん♪


 少女は公園に足を踏み入れた。
 思っていたとおりに奥の方にある砂場の中にみんながうずくまって集まっている。その光景が瞳に入り込んだとたん胸の内の不安はどこかに消えて、期待はどんどんと膨らんでいった。

 いきなり声をかけてみんなを驚かせてみようと考えた。だから気付かれないように、そっと砂場に近づきたい。それなのに心臓のドキドキの音が辺りに鳴り響いてしまって、せっかくの作戦の邪魔になりはじめている。
 一旦顔をあげてみて、流れるハートの雲を観ることにした。
 するとなんだか元気が湧いてきたので、そっと砂場に近づけた。
 そうしてうまく砂場の側までくると、
 すぅーっと息を吸いこんでお腹に力を入れる。

 突然、勢いよく声をだした。

 友達はびっくりすると目をまるくして声の飛び出した場所を振り返る。3人はすぐにそれが仲良しの少女の声だったんだと気づいて嬉しそうにグンッ!と立ち上がった。3人の表情はそれぞれだった。


     おどろいた顔をしている ミキちゃん☆.‥`
         ポカンとしてる リョウくん♪。゜。
       ニッコリしてくれた モエちゃん☆.‥.

       モエちゃんは いつもニコニコしているけど♪

     みんなは きれい になったワタシを見つけてビックリしてるっ!
     とつぜん声をだしたのも大成功ねっ!
     ワタシの きれい を見ているんだわっ!
     なんてうまい作戦だったんでしょう!


 少女はもうこれ以上は喜びをこらえきれないといったふうに、ポケットから魔法の筒を取り出してみせた。そして、この金色の筒で奇麗になったのだという事をしっかりと3人に説明した。
 少女の胸の内でみるみる膨らんできたワクワク風船は、まだまだ大きくなる余地がありそうだ。作戦が成功したことを体中で味わって、両足はフワフワしていてもう飛んでいかないようにするのが大変で、やっとのことでそこに立っている。少女はどうにか体を抑えながら、3人の反応が驚きから羨望の眼差しに移り変わるのをジックリと待ちかまえることとなった。

 この時、少女は幸福の絶頂期を迎えていた。

 3人は赤くなった少女の顔と、誇らしげに握られているぴかぴか光る筒とを交互に見ている。そして不思議そうな顔をして、ただ立っているだけで、誰も少女に近づこうとはしなかった。
 少女はしばらくしてから、驚嘆の声も、賞賛も沸き起こらず、相変わらずぼんやりとした顔をしている3人に違和感を感じはじめてきた。

  この顔は なんだろう?
       ミキちゃんの顔は 魚屋にいたオバさんのよう
       リョウくんの顔は シロみたいにポカンとしてる
       モエちゃんはもう きれいをわかってくれてるのかな?

 どれも少女が期待していた反応とはちょっと違っていた。なんだか不安な気持ちにかられてきた。どうしていいかのか分からない。間違ってちがう公園に来てしまったという可能性も考えなければならなくなってきた。こんな状況なんてちっとも想定していなかったのだから。
 何の反応も見せてくれない友達にも耐えかねて、少女のほうから問いかけた。
 それでも反応がないので、もう一度同じ言葉で言ってみた。

「きれいでしょ

 3人の瞳の色は変わらない。胸の中であんなにも膨らんでいた風船があっという間にしぼんでいく。さっきまでの期待もどこかへ消えてしまい、所在なげに友達の方を見たが、その手に泥団子が握られているのを見つけると

「お団子作ってるんだ
『バケツにさ あっちの水道から水を入れてきてさ
       みんなでお団子つくってるんだ

 リョウ君がそう言って手に持っていた泥団子を突きだして見せた。その小さな掌に乗っかる泥団子を見ると、少女は思わず一歩前に乗り出していた。

「まんまるだねー
『ほら あたしのも見て 中に葉っぱを入れたのよ
『ボクは もう3こも作ったんだよっ!

 リョウ君は意気揚揚とそう言ってから、また砂場の自分の場所に戻ると次の泥団子を作り始めた。ミキちゃんとモエちゃんは誘ってくれる。

『ねえ 一緒にお団子作ろう
『どうしたの? ひろみちゃんも一緒に作ろうよ♪
「、、、ワタシさ きれいにしてきたから できないの
『ふーん そうなんだ
「ここで みんなのを見てよかな
『うん できたら持ってきてあげるね

 そう言うと3人は再び泥団子を作るのに熱中していった。少女は仕方なく砂場から一歩下がった場所に立って、みんなの様子を観察することになった。

作品名:Lipstick 作家名:夢眠羽羽