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かざぐるま
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ビッグミリオン

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静かなる拡散


『日本・さいたま市』 四月三日


 吉田家では浩二の妻の京子が洗濯機を回していた。いつもならそろそろ息子が小学校から帰ってくる時間だ。
 この日、浩二が工場勤務を終え帰宅すると、夕方だというのに妻がまだ洗濯機を回していた。今日は機嫌が特に良いのか、楽しそうな鼻歌が玄関まで聞こえて来る。
「ただいま。あれ? こんな時間なのにまだ洗濯してるのか。今日は洗濯物が多かったんだなあ」
 妻を労いながら後ろを通り過ぎると、ビールを取りに冷蔵庫に向かう。
「おーい、ビールが切れてるぞー。しょうがないな、昨日買っとけって言ったのに」
 キッチンから食卓を覗いてみると、テーブルの上には食器も何も用意されていない。いつもならこの時間には暖かい夕食がところ狭しと並び、浩二と息子の帰りを待つ妻がニコニコして立っているはずなのに。
 違和感を感じつつも、自分で買いに行こうとしぶしぶ脱ぎ掛けのズボンを履く。洗濯機の所に行った時、ちょうど妻が足元の洗濯カゴから今取り出した服に目がとまった。
 そこにはまだ衣服がたくさん山積みされている。昨日の夜に出した作業服がそこにあるのを見て、不思議に思い一歩中に入り手にとってみた。
 それは――完全に乾き、汚れも落ちていた。今日はいい天気だったから、服からは太陽の良い香りさえしている。
「京子、これもう洗濯が終わってるだろ。何でまた洗おうとしてるんだよ?」
 不思議に思い、妻の横顔を帰宅してから初めてまともに見た。
「キレイキレイにしなきゃねェ」
 妻はどこか一点を見つめ、小さな声で鼻歌を歌っている。
 歌いながら洗濯機の中に“一度洗って、乾いた服を全部”をまた入れようとしていた。
 その様子からただならぬ気配を感じたのか、細い肩を掴み強引にこちらを向かせる。
「……あなた、誰ですか?」
 妻は初対面の人を見るような眼で浩二を見ている。しかし、その眼には感情が何も表れていない。
 浩二の背中に冷たいものが走ると同時に、居間の電話が鳴った。首をかしげてじっと自分を見ている京子に何とも言えない恐怖を感じながらも電話に出る。
「もしもし? こちらは大宮西警察署ですが、吉田一馬君はお宅の息子さんですか?」
 固い口調の男性の声だ。
(――警察?) 
「はい、一馬は私の息子ですが。何かありましたか?」
 心臓の鼓動が早まる。
「いえね、息子さんを保護してるんですが、様子がおかしいんですよ」
「おかしいと申しますと?」
 浩二の受話器を持つ指先が、力を入れすぎて白く変色している。

「うちをわすれた……と。息子さんの携帯電話から親御さんの電話番号を見つけて、今電話をさしあげた次第です」
 ほっとしたのか、電話の向こうの声も和らいだ。
「すぐに迎えに行きます!!」
 受話器を叩きつけるように置き、テーブルの上の車のキーを乱暴に掴むと、玄関を開けっ放しにして出て行った。
 洗濯機の前では、京子が虚ろな目をしながら“本日十二回目の洗濯”にとりかかろうとしていた。

 警察署までは車で十分ぐらいだ。途中の信号で止まり、発進しようとした時にそれは唐突にやってきた。(あれ、アクセルってどっちだっけ?)
「パパアアアアン!」
 後ろの車から激しくクラクションを鳴らされた。慌ててペダルを踏んだが進まない。試しにもう一つのペダルをぐっと踏んでみる。
 車は尻を叩かれたように急発進したが、今度は《自分がどこに行こうとしているのか》をどうしても思い出せなかった。
 みるみる前方の車のテールランプが近づいて来たが、今度はどうすればいいのか浩二には全く分らなかった。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま