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おやまのポンポコリン
おやまのポンポコリン
novelistID. 129
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アシモドキ

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【 アシモドキ 】

 何故ここにいるのか分からない。
 私はいったい誰で、名前はなんというのだろう?
 周りで話されている言葉が日本語だというのは分かるし、その内容も理解できる。
 それなのに自分に関する記憶が全くないのだ。

 白くて清潔な建物・・・。
 時折看護師さんが通るところをみると、ここは病院なのだろう。
 けれど病院にしては少しおかしかった。

 ロボットが多すぎる。
 しかもそのロボット達がまるで人間のように椅子に腰掛けて雑誌を読んだりテレビを見たりしているのだ。
 ふと私は自分の手が金属でできているのを発見した。
 廊下にあった鏡を見ると、そこに写っていたのは、まるでHONDAのアシモ君。
「そうか、私はアシモ君だったんだ!」
 私は自分を発見した喜びで思わず声を上げた。

 だが・・・、
「違うよ。あんたはアシモ君じゃない」
 その声に振り返ると、これもアシモ君のようなロボットが立っていた。
「もっとも私らは自分達のことをアシモ・モドキ、略してアシモドキと言ってるけどね。ハハハハ」
 そう言って自称アシモドキが笑った。

「こっちに来てごらん」
 私はアシモドキに言われるまま長い廊下を歩き、研究室のような場所を見下ろせる見学デッキに案内された。
 強化ガラスに囲まれた研究室の中には棺桶状のカプセルが数十個並べられていて、そこに人形のような物体が収納されている。

「あれが本当の私らさ」
 アシモドキがポツリと言った。

「ここは再生医学研究所。事故にあって損傷の激しい肉体を再生医学を用いて修復する所。その間、脳は肉体と切り離され、仮住居としてこのアシモドキが与えられるというわけさ」
 アシモドキが自分の頭部をコツコツ叩いた。

「すると私もあの中にいるのね」
「そう、あんたはあそこのご婦人さ」
 アシモドキは一番端のカプセルに入れられている初老の婦人を指さした。

「記憶が無くなっているようだから、看護師さんから聞いた話を伝えると、あんたは本渕尚子65歳。3人の子共と一人の孫がいる。夫とは6年前に死別。家は埼玉にあって・・・」
 アシモドキは、まるで我が事のように説明をした。

「そうか・・・名前は本淵っていって、もうおばあちゃんなのね」
 私がそう呟いた時、別のアシモドキ2号が話に割り込んで来た。

「騙されちゃいけないわね。あなたの名前は吉田雪菜35歳。まだ独身で外資系ファーストフード店の店員よ。あなたの肉体はそこにあるわ」
 そう言いながら、アシモドキ2号は中央のカプセルに眠る小柄な女性を指さした。
「エッ私はおばあさんじゃないの? まだ独身なの?」
 わけがわからなくなって立ちつくしていると、
「ホッツホッホ、それも違うわね」
 と、今度はアシモドキ3号が現れ、2号を押しやって私の肩を親しそうに抱いた。
「いい? あなたは横光兼蔵41歳。『イチジク葉っぱ』というパブを経営している男性で・・・」

「ふざけるなこのエロタヌキ! ここは婦人病棟だと何度言ったら分かるのよ」
 アシモドキ1号と2号が一緒になって3号を足蹴にしている中、私は一人困惑していた。

「いったい私は誰なんだろう?」
 そう呟いた私に本当の答えを提供してくれたのは看護師さんだった。

「だいぶ脳の状態も良くなってきたようね。あなたの名前は南野春香。ひどい自転車事故にあって、ここに運ばれてきた高校生よ」
 そう言って看護師さんは右端のカプセルに眠る若い女性を指さした。
「仮の肉体、通称アシモドキはみんな同じ形をしているので、あなたのような若い記憶喪失者がいると、あわよくばタグを入れ替えて若い肉体を手に入れようというふざけた人がいるの。だから、南野さんも気をつけてね」

 恐るべし! 再生医学研究所。驚きで、いっぺんに記憶が戻って来そうな気がした。


    ( おしまい )


 ※・・・この話はフィクションです。登場人物等は存在しません。