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カメレオン



 戦士は窮地の中にあっても、唯1人切れのある戦いを展開している。魔人の爪拳攻撃後のコボルドの攻めにも冷静に対処した。
 そして戦士は考えた。
 僧侶と同じく不可解なバトルに疑問をつのらせ、頭のどこかにに仕舞い込んでしまった記憶を呼び起こしていた。
 数年前、別のパーティで第8フロアに出向いた時の記憶を。あの冒険の際に魔人の種族と遭遇して戦った記憶を呼び起こし、眼前の魔人と照らし合わせてみた。

数年前、戦士が遭遇した魔人の印象は、単純な殺戮機械。
凄まじい攻撃力で冒険者を殺戮するのみの存在でしかなかった。
その肉体は物理攻撃は勿論、魔法すらも受け止めて圧倒的な体力で弾き返した。
恐ろしい打撃とハイレベルの魔法の連続攻撃。
更には仲間を次々と呼び寄せ瞬く間に魔族の数は増え、一行を取り囲んだ。
小鳥のように軽快に飛び回る躍動などは一切見せなかった。
低俗なコボルドとの連携を画策するような存在ではなかった。
冒険者に思案する猶予を与えてくれるような生易しい存在ではなかったのだ。
もちろん同種族であっても個体差は多少なりともある。
だが、これ程に印象の違うものなのかと困惑し、戸惑いを払拭しきれなかった。

中空の魔人は次に狙う相手を物色している。

 僧侶は魔人の動きとコボルドの位置を見定めつつ、視線をバトルフィールドの外に向けてみた。ずい分前から辺りにはスライムや小獣など、下等な獣がこのバトルの末のおこぼれを狙って群がって来ていた。
 それらはこのフロアに似つかわしい顔ぶれであった。

僧侶は辺りの光景を見ていて、不意に何かを訝しんだ。

僧侶はふとした思いつきで足元にころがる指の爪程の小石を拾いあげ、魔人が中空に停滞している瞬間を見定めて、投げつけた。
放たれた小石は
       ヒュン とした風の音と共に魔人の肩の周辺
      破壊的に盛り上がる筋肉に向っていった
     そして小石は命中し
    魔人の皮膚に接触するなり
   不可思議な現象を見せたのだ

 僧侶 「_ なッ、なんという…、ことだ!! _

 投げ放たれた小石は魔人の肩に命中したのだが、衝突した後の物理的な道理としての弾き返る現象を見せずに、その肌の中に飲み込まれて消えてしまった。
 侍を失い、補助魔法も殆ど使い果たした後、僧侶は初めて魔人の謎を悟る。

魔人はパーテイーを弄ぶどころか、全力をもって戦ってきた。
爪拳の一撃を交わされていたのではなく、当てなかった。
「死の宣告」は、あえて瀕死の侍を狙った。
冥府の魔法が発動することはならないから。
決して発動させることは出来ない。
それらをすれば、仮初の正体を明かしてしまう事になるからだ。
僧侶の怒声がバトルフィールドに響く。

 僧侶 「グレーターデーモンにはかまうなッ!
      コイツは擬態!
       どこかに潜むカメレオンが創り出した幻影だッ!!

魔人は翼を広げると、戦士に向かって滑るように滑空していく。

戦士は魔人の出現後、この戦況の不可解さに答えを見つけ出せずにいた。今、胸に抱えていた掴み所のない疑念と僧侶の言葉はつながり、結ばれた。
 重心を落して両足を踏ん張り、盾をかざし、防御の姿勢を整えて待ち構えた。翼を広げて向い来る魔人の滑空を回避する素振りはない。もし、その見解が間違いであれば、戦士の肉体は致命的に破壊されるだろう。
 低い防御姿勢を整えた次の瞬間、滑空の魔人が眼前に降り立つと同時に
           爪拳は構える盾に鋭角的に衝突し
          意図も容易く貫くと
         そのままの勢いで鎧も貫通
        爪拳は戦士の背中に突き抜けた

 しかし、そこには物理的な衝撃も血飛沫も見られない。
 他の3人の眼には、戦士の体と魔人の繰り出した爪拳が同じ空間に同居し、明らかに交わり、そこ、で重なり合って存在している様に映っている。

 聖騎士「なん、だ…?
 魔法使「ど、、こ、これはっ!

聖騎士と魔法使がその状況を理解し、
    頭の中で整理するその前に、魔人の姿は蜃気楼のように揺らぐと
                  沸騰した湯気のように霧散した後
                   完全に、そこ、から消え失せた
 戦士 「さがれ! 立て直す!
 聖騎士「きっ、えた!!
 魔法使「なんだっ、、たん…
 僧侶 「幻影だったのだ、それだけだ! 気を抜くなっ!

パーティーを追い込んできた蒼色の魔人は、このフィールドの近辺に潜む存在の作り出していた幻影であった。
 戦士の冷静な声を聞き入れ、パーティーは速やかに陣形を立てなおす。
 すると、再びコボルド群の後方の闇から新たにハイレベルの魔導鬼が現れる。
 戦士は素早く跳び出し魔導鬼に向って一直線に駆けだした。

 僧侶 「後でもかまわん!
 魔法使「バンパイアロード!
 聖騎士「いい加減にしてろっ!

戦士は迷いなく魔導鬼に向かい疾走した。
先の魔人と同等レベルのルール破りな強敵の連続。
魔導鬼は死の形相で威嚇する。
戦士は構わずに速度をあげた。
魔導鬼が早くも闇の魔法を完成させようとしている。
未熟なパーティーなら瞬く間に死の谷へ突き落とされるような呪文の早さ。
戦士は魔光の完成とともに勢いよく魔導鬼の正面に躍り出た。
闇の魔法に対しては一切の対処もなく
     無造作に射程内へ飛び込み
    魔導鬼の身体に吸い込まれ
   交わり
  背後の闇の中に飛び抜けた

戦士は集中力を引き上げ神経を研ぎ澄まして辺りの気配を伺う。少々の闇なら透る狩人の眼が、仄暗い闇の中に潜むとぐろの尻尾を捉えると、すぐさま踏みにじりカシナート剣が体長30センチ程のメイジカメレオンを斬断し、ダンジョン壁にその首が弾け飛んだ。
 同時に魔導鬼の姿もまた霧散した。

 戦士は怒りの渦の中心に奮え立っていた。