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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <前編>

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ここは『天空と大海の大陸』。
天空の神と大海の女神が治める場所。
天空の神アジャレイと大海の女神シュッダーの元には、生来それらに仕えるべく生まれた種族がいる。
通常の人間と酷似した容姿を持ち、人間との間に子を生せる。人間といっても良いのだろう、だから人間の中の『一種族』として分類される。
彼らを『神官』もしくは『生来神官』と呼ぶ。
その神官のなかでも特殊な人物達がいた。
通常神官は普通の人間のように子を生し、生まれ死んで行く。
その法則を全く無視してこの世に現れた二人の神官、そしてその守護者。
親も無く突然この世に具現化した。
彼らを『神が直接使わした神官』、略して『使神官』と呼ぶ。
使神官とその守護者は天空の神と大海の女神それぞれの神殿群の頂点にある『央神殿』に、異空間としか言いようが無い部屋を作り出しそこで生活している。
その使神官の間にはこの世界(大陸)のどこへでも行ける、という扉がある。
その扉を使い、世界で起こる対処すべき事案に力を貸しているとの事だった。


***



が。
実際には何処にでも行ける訳ではない様だ。


「また微妙な…」
僕、ことト・スプライスがその使神官の間の扉より放り出されてみれば目的地の影も形も見当たらなかった。
僕は使神官とも通常の神官とも異なるまた特殊な存在で、どちらかといえば使神官寄り。
大海の女神シュッダーの使神官ト・スクーナ様の下で働いている、とでも言えば良いのか。保護下に有るという言い方も出来るかもしれない。
しかし、今回の目的はアジャレイ教使神官タ・ルワールの獣従者を選定することで、目的地は従獣族の村。
天空の神の従獣族といえば有翼人のこと。 
「外に出たら道をまっすぐに進めばいいから」
とは言われたものの、左右どちらへ行けば良いかも分からない。
その辺りは勘にまかせたが、今度は歩けども歩けども気配も見当たらない。
すでにどらくらい歩いた事だろうか。
日の高さも大分変わってきた。
自分の勘が間違っていたとは思わない。
「もっと近くに出口出せって」
ぶつぶつ文句を言いつつ歩くが、その景色は悪いものではなかった。
左手には広々と野原が広がり遠巻きにするように林が見える。その彼方は山脈。道の前方へもつながっていて段々迫ってくる。
右手には河原と広々とした川が広がっているが、大分上流のようでこちらもその川幅は歩いているうちに幾分狭まっているように感じた。
水の気配が傍に濃厚だとそれだけで落ち着ける。
難を言えば僕は川より海のほうが好きだと言うことだけだろうか。
それは我侭すぎると自分にも笑う。
代わり映えしないようで、刻々と変化する景色。
しかし、さすがにそろそろ目的地の手がかりがあってもいいだろうと思い始めたあたりで(そう思うのも遅かったが)、不意に変わった気配を感じた。
翼人のものではない。
僕も翼人と会ったことくらいはあるが、それとは全く別種の違和感を感じたのだ。
何かあるのだろうかと、気配のする方向へ感覚を研ぎ澄ませる。
そこからそれほどたたずに歩いている場所より僅かに崖下のようになっている河原にしゃがむ人影が見えた。
茶色の髪に緑茶の服。
ほっそりとはしているが男のようだ。
その姿は翼が無いのは一目瞭然としても、服装も有翼人には見えなかったが残念がっても仕方がないと声をかけてみることにした。
「すいませーん、翼人の村があるって聞いてきたんですけど!」
川の音もある。
大きめの声を出しても聞こえるか分からなかったが出すだけ出してみた。
一人で声も上げずに幾時間も歩いてきたせいか、それだけで気分がすっきりする。
もともと、こんな声を張り上げる事も昨今は無かったから自分の身体の変化に意外さを感じた。
そのまま相手の様子を見て聞こえなかったようなら再度声を上げようとしたが、相手がこちらを振り返ったので同じことを繰り返すのを止めた。
機敏ではないが、遅すぎもしない動作で立ち上がりつつこちらへ顔を向ける。
視線は…なかった。
瞑られたままの目蓋は開かない。

”…翼人の村へおいでですか?”

「!!」
一瞬傍で語りかけられたのかと感じるように、直接心へ届く男の声。
どんな声かと言われれば、穏やかな声なのだろうけど…実際耳にするのとは違う感覚だ。
これもこういう魔法があってそれを体験したことがあるから『心に届いた』と分かっただけ。
いや、微妙に違ったかもしれない。
一瞬身体の周囲を先ほど感じた奇妙な感覚が濃厚な気配となって駆け抜けた。
「そうだけど…って僕は声出したほうがいいかな?」
”お願いします”
そう言うとなにやら行っていたらしい作業を手元のバッグにまとめてこちらへ歩いてきた。崖を上ってきたという方が近いか。
僕としてもそちらのほうが話しやすくてありがたい。
先ほどの動作を思えば思いのほか機敏に傍にやってくると、年齢は20歳前後で身長はスプライスの頭半分くらい低い程度だろうことが分かった。
肌の色は白目だが明るい茶色の髪とバランスが良い。
「初めまして。僕はシュッダーの神官ト・スプライス。言い付かってこの近くにあるって聞いた翼人の村に行くところなんだけど…本当にある?」
声をかけると青年はまた、顔だけ僕に向ける。
表情は全く無い。
” はい、この先に翼人の村はありますよ”
その返答の声には不思議と苦笑と明るめの響きが感じられた。
表情が無いのに声にだけ感情が感じられるのは奇妙な感じだ。
「この先まっすぐって聞いたんだけど」
”それほど遠くないです。よろしければご案内します”
「なんかやってたみたいだけど…いいのかな」
青年のバッグを見る。
何が入っているのかは分からなかった。
”終わりましたから大丈夫です”
相変わらずさっぱりした明るさのある声だ。
とはいえ実際に耳にしているわけではないので、飽くまで『感じる』だけなのだが。
”こちらです”
青年が示した方向はこれから向かおうとしていた方向と有っていた。
やはり勘で動いて正解だったらしい。
そもそも、今回はその勘で動くしか無い案件なのだが。
”申し遅れました。僕の名前はカティサークです”
そう名乗った青年は、先ほどまで河原で薬草を摘んでいたという。
見れば指先が微妙に緑に染まっており、草のにおいがした。
元々草の匂いが濃かったから気にならなかったのだ。
翼人ではないが、翼人の村に住んでいると言う。
目も見えず、やはりと言うか音も聞こえず、実は触覚、嗅覚、味覚も無いと言う。先ほどしゃべれなかったように肉体の動きも制約されているらしい。
ではどうやってあの場所で作業を行い、あそこまで歩いて崖を上り下りできていたかといえば、先ほど感じた謎の気配が全ての鍵だった。
全てカティサークの生活を助ける精霊の活動があるのだという。
通常の精霊使いたちが交流し使役する精霊とは種類を異にするモノで、それぞれの感覚器や行動に補助の役割を果たしてくれるらしい。
俄かには信じられなかったが目の前で起こっていたので認めざるを得ないだろう。
確かに奇妙な感覚を得たのもある。
世の中には不思議なことがあるものだ。
更に不思議なことはあった。