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サクラモリ

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序章 群青



 桜の精は男性なのだとは聞いていた。それでも、自分の中では美しい女性を思い描いていた。

 中秋の名月が過ぎ、鈴木家の門に忌中の提灯が掲げられた。
 敷地内には親類縁者が大勢つめかけ、近所の女性達は精進あげの御膳の用意で忙しなく立ち働いていた。
 葬式というものは意外としんみりする時間は限られており、他は親戚同士で飲み食いなどして賑やかなものである。
 そんな中、暁は一人、中庭に抜け出していた。
 えらい人やった、大往生やった、そうした故人を偲ぶ言葉も聞き飽きて、台所を手伝う手も足りていると追い出されたところだった。
 処々に朱や薄紅の彼岸花が咲き乱れる中庭には故人――祖父・威一郎が愛でた臥龍桜が佇んでいる。見事な枝ぶりの向こうの空は、群青色に染まっていた。
 ――寂しなったなぁ
 桜に話しかけるように暁は思った。祖父を尊敬していた。また、家業も継ごうと祖父の手伝いをよくした。
「ここにいたのか」
 同じように追い出された、遠藤巽も中庭にきた。彼は祖父に一番信頼された職人で、有限会社鈴木造園の役員の一人だ。経営は彼が継ぐことになっている。煙草に火をつけ、一回煙を吐くと、臥龍桜を見上げて「相変わらず見事だな」と漏らす。
「こいつの手入れ、遠藤さんできるん?」
作品名:サクラモリ 作家名:黒枝花