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コメディ・ラブ

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出会い



「小山村という名前から想像できる通り、我が村の自慢は大自然です」

校長先生が得意げに文部科学省の偉い人達に喋っている。

私は校長先生の横に座り、微笑みを浮かべながら、心の中だけで続きを付け足す。

うちの村、大自然だけを売りにするしかないんですよね。はっはっはっ。

その時、校長がいきなり私を紹介した。

「こちら、教諭の山村美香です。彼女が総合の時間にささ虫の研究をしているんです」

「あっ、山村です。はじめまして」

私は慌てて挨拶をする。

「彼女、ささ虫採りの名人でもありましてね、あっそうだ。明日お帰りになられる前に採りたてのささ虫の佃煮お持ちしますから。いやいや遠慮なさらず」

私は一瞬校長に殺意にも似た狂気を抱いたが、あわてて微笑みを浮かべなおした。




 職員室に戻り、近所のおばちゃんからもらった農作業帽子をかぶり、ぼろぼろのジャージに着替え学校を後にした。

このくそ暑い日には、くるぶしほどの水位の小山川は水が冷たくて気持ちいい。

これだけ採ったから後もう20匹で足りる。

そう思い再びしゃがみ込んだ、その時。

「おかあさーん」

遠くから誰かが叫ぶ声がする。誰か若者が里帰りでもしてきたのだろうか。

「おかあさーん!!」また叫ぶ声がした。

声がどんどんと近づいて来る気がする。

「おかあさーん」

ひょっとして……

そんな馬鹿な……おそるおそる振り向くと、30代ぐらいの都会の芸能人風な男がこっちに駆け寄ってくる。

その後ろからテレビカメラ、撮影スタッフらしき人が小走りについてきている。

都会風の若い男が息を切らしながら言った。

「お母さんこんにちは」

「お、お母さん……」

今まで感じたことがないような怒りがふつふつと沸いてきた。

芸能人風の男が両手を広げて大げさにアピールする。

「素晴らしい大自然ですね。マイナスイオンが気持ちいい。ねえお母さん」

体中から殺気という殺気を放出しながら言った。

「……私まだ27でお母さんでもありませんが」

芸能人らしき男が慌てながら色んなことをごまかそうと言う。

「あっすいません……いやあ太陽が眩しすぎて顔がよく見えなかったな」

「今曇ってますけど」

凍りついた雰囲気をなんとかしようと、芸能人風の男は自分の顔を得意げに差しながら尋ねてきた。

「そ、そういえばぼくのことご存じですか?」

不審に思いながらも芸能人風の男の顔をみる、何か思い出した気がして。

「あっ」と言ってはみたが、やっぱりわからない。

けれども、さも当然かのように芸能人風の男は答えた。

「気づいちゃいました?参っちゃうな〜」

やっぱりどれだけ考えても知らない。

「やっぱわかんない。」

芸能人風の男はテレビ番組のように大げさにこけた。

なんだこの男は。

「ちょっと邪魔だからむこういって。はいカメラさんごめんね」と私はカメラの前を通り過ぎ、川岸近くでピンセットを取り出ししゃがみまた作業に取り掛かった。


芸能人風の男はむっとしたように見えたが、営業スマイルを見せ、再び近寄ってきた。

「お姉さん、今何してんですか?」

「あ?虫とってんだよ」

「虫?虫?なんの為に?」

「食べるためだよ!!!」

「ひえ!」

芸能人風の男は驚きのけぞった。

つくづく大げさな男だと思った。もうめんどくさい。こいつに関わりたくない。

「……この地方はみんな食うんだよ」

芸能人風の男はカメラの方を急に振り向き報告をし始めた。

「緊急事態です。虫を食べる人を発見しました。まさかこの現代の日本に虫を食べる人がいるなんて」

私の中で何かが切れた。

「虫食べて何が悪いんだよ!?この村の食文化馬鹿にしてんのかよ!」

男は必死に首を左右に動かし答える。

「馬鹿にしたわけじゃないんですよ。」

男は再びカメラのほうを向き小声で報告した。

「変な人とあっちゃいました〜♪」

年齢と共に穏やかになったとはいえ、小山村の火薬庫というあだ名をつけられた私にはもう限界だ。

男はふざけたポーズをとり、さらに畳み掛けてきた。

「ごめんなちゃいちゃい」

「ふざけんなよ」

自分が怒ってることをとりあえず知らせたかったので、お決まりの指をポキポキならしながら男に近づく。

他のスタッフ達はおろおろしているがそんなこと関係ない。

男は後ずさりしだした。

「おい、待て、俺は天下の晃だぞ……5000万人が真実の愛に涙した伝説のドラマ、ラブアゲインの主人公なんだぞ!」

私は真実の愛っていう言葉に笑ってしまった。

「ぷっ。何だよ。そのドラマ知らねえな。っていうか真実の愛?ってなんだよ」

「真実の愛は……真実の愛なんだよ」

私は心底愛だの恋だのいう人種が嫌いだ。

心の底からこの言葉がでてきた。

「くだらねえ。なんだよその陳腐なドラマは?」

段々と男もイライラしてきているのがわかった。

上等だ。やってやる。

「……fランクの女が俺のこと馬鹿にしやがって。」

「fランク?」

マネージャーらしき男がダメダメと晃に合図を送っている。

「そんなこともわかんねえのか。お前みたいな、不細工で性格も悪い女はな、最下位のfランクなんだよ」

私は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

わかっちゃいるけど、改めて言われるとこれほどショックな言葉はない。

マネージャーらしき男が必死に叫んでいるのが遠くで聞こえる。

「晃さんやめてください。一般の方ですよ!」

マネージャーは無視して、こいつはまだ続けた。

「ついでに言うと、Fランクの女達は俺としゃべることすらおこがましいんだよ。」

私はその言葉で我に返った。

天罰を加えてやる。

「最低な男だな。鏡でもう一回自分を見てみろよ」

言い終わると同時に男の肩をそっと指で押してやった。

「うわぁ」

普段なれない川にいるであろう男は案の定後ろに倒れた。

ばしゃーんという大きな音が周囲に響き渡る。

スタッフ達が晃さんと叫んでいたがもう遅かった。男は川に見事にしりもちをついていた。

私は捨て台詞を吐いた。

「次はこんなもんじゃ済ませねえからな」

スタッフ達が慌てて駆け寄る声が聞こえてきたが、もう知らない。帰ろうっと。

まあこれ以上のことをする勇気もないけど、、

こんなやつとは、もう2度と会うことはないだろう。





作品名:コメディ・ラブ 作家名:sakurasakuko