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なんて日だ! ショート7つ

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憂鬱



 私はD型のロボットである。
 今から私の憂鬱を聞いて下さる皆さんの時代からすれば、未来にあたる時代に開発されたロボットである。ある1人の天才的な博士の作りあげた数多くの作品のうちの1体であり、世間的には2人の博士の共同作品とされている。
 ロボット技術の進歩のおかげで私の時代のロボットは、無駄に性能が向上しすぎて様々な機能が備え付けられている。オプションの機能も数えきれない程で、その中の多くの機能は重複している。
 「味覚」。これも無駄な性能の一つかもしれない。だが、無駄と思えるものが世の中の役に立つことは少なからずもある。私もこの性能のおかげで、今から好みの和菓子を食する時間を愉しむことが出来るのだから。1秒の誤差もなく、毎日この時間にティータイムを迎えるのが、私の囁かな喜びとなっていた。
 仕事上の理由により、現在私は私の造られた時代とは異なる時代に訪れている。私のオプションの能力からすれば、多くの問題はシンプルに片付くであろうが、プロセスすらパーフェクトに近いかたちでクリアするようにプログラムされ、求められている。
 私の職種は顧客の満足度が重要なファクターとなるサービス業にあたり、思考回路への負担は少なくない。それらの回路の疲労を癒す為に、テーブルの上に和菓子が置かれている。

 階下では激しくドアの開けられる音がする。

 私は和菓子に伸ばしかけていた手をその場で止め、出荷された時とは異なるバージョンの耳を澄ませて、階下の様子を探ってみる。
 ドアを開けた顧客は、大きな声をあげて誰か(私であろう)を探しながら階下を移動している。ここで聞いていても、そのうろたえぶりが、手に取るように伝わってくる。

 どうやら私の出番らしい。

 もうしばらくすると、この部屋の扉を開いて入ってくるその顧客は、きっと大げさなジェスチャー混じりに依頼話を切りだしてくるであろう。
 私は舌打ちをして、和菓子に伸ばしていた手を膝の上に引きもどした。

__ロボットに「舌打ち」の機能が必要なのだろうか? と、みなさんの時代ならば疑問に思われるかもしれないが、技術の発達した未来のロボットの任される仕事は多岐に渡り、巨大な組織の中に組み込まれ、顧客(人間)との複雑な人間関係を構築し、信頼にまで達する事を要求され、その中での予期せぬプログラム化できない人間の事象にいきあたり、私の回路に必要以上の電気負荷が掛かったその際、この「舌打ち」機能でその負荷を逃がしてやるのだ。もちろん私がこの機能を使うときは、人前ではなく1人の時。そのようにプログラムされている__

 そのあと、いつもの事だが軽い憂鬱に私は捕らえられる。
 ひとつには、世間ではそろそろ1日の仕事に見通しがたち、ホッと息をつくというこの時間に限って、その顧客が仕事を持ち込んでくる事にその理由がある。その結果、私はこの仕事を始めてから週に何度かは、必ずこの顧客にティータイムの一時を濁されるのである。
 もう一つの理由は、こちらの方がより私にとって深刻なのだが、この世知辛い時代に許された束の間のティータイムをさえ、私から奪っていくにしては、この顧客が依頼する仕事の内容はヒドくくだらない依頼が多いからだ。
 私とてそれほど大それた望みを持っているわけではないが、自分の能力を充分に発揮してみたいという願望は人並みにある。それなのに、子供の遊びにすぎない仕事ばかりが舞い込み、しかもそれが手間だけはかかるとなれば、舌打ち機能が発動しようというものだろう。

 だが、しかたあるまい。これが今の私の仕事なのだから。

 私は憂鬱を追い払い、これから私がせねばならないであろう仕事の手順を頭の中で整理する。
 ゆっくりと。自らを納得させるように。
 例えそれが、ますます私の欺瞞を深くしてゆくのだとしても。
 私の仕事は、まず顧客を私の前に座らせ、ひとまず落ち着かせる事から始まる。
そしてその後、顧客をあやすようにして、順序だてて顧客の話を引き出していかなければならない。何故なら大抵の場合、依頼内容の骨格はこの顧客の中で事前に脚色され、その結果、当の問題の焦点はひどくぼやけてしまっているからだ。

 彼が強く訴えるのはいつも自分が被害者であるという事、それだけなのだ。

 だが問題というのは、どちらか片側に100%その原因があるという事はない。 私は仕事を始める前に、そうした事をまず顧客に納得させなければならず、しかもその事は当の問題を処理するよりもやっかいな事が少なくない。なぜならそのことに対しては、私のオプションの機能を使用することも出来ず、もしそれをしてしまったなら全てが無に帰し、私はこの職をうしなわれるだろうから。

 年に1度(春頃に多くみられる)くらいはこの顧客の大仕事にぶつかる事もあるのだが、そうした大仕事でもなければ、私の能力に相応しからぬこの日常を続けていく事ができないに違いないだろう。
 階段を上ってくる顧客の足音を聞きながら、私は今度の仕事がそうした冒険心を擽る希有な大仕事であるかどうかを、その足音のリズムから推し量った。
 だが、どうやら今度もそんな期待は持てそうにないらしい。退屈が長く続くと、そんな事には不思議と敏感になるらしく、私の予想はそうそう外れはしない。
 その予想が外れるわずかな可能性に望みを託しながら、私は仕事向けの穏やかな表情で顧客を迎える用意をする。どんなに仕事の内容がくだらなくとも、その事が私の表情に出てしまうと、顧客はさらに感情的になり、依頼の詳細を聞き出す事が困難になってしまう。
 どんな場合であろうとも、顧客に迎合しきって同情してやるには、こんな心の準備も必要になってくるのだった。
 私はこの顧客での2,3の苦い経験の中から、仕事上のこういう知恵を得たのだが、私の仕事のコツと言えるようなものは、実のところそれくらいしかなかった。

 憂鬱な気持ちに取り囲まれながら私は思う。私の持つオプションの能力の真価を知るものからすれば、恐らく今の私の置かれている仕事の環境は信じられないに違いないだろう。もし私の持つオプション能力のうちの一つでも、その真価を真に知るものが有効に使えば、小さな国の一つくらいならすぐにでも支配することさえ出来ると思えるのだから。

 だが、これも運命なのだろうと快く受け入れている。
 例えそれがコロコロと転がり落ちる漫画の様に信じられないくらいにコミカルだとしても、この世に掃いて捨てるほどある不運のうちの一つにすぎない。だとすると、自分を悲観してみたところでそれが何の解決になるだろう。
 私は秘密を知っている。運命の女神は、後ろ向きな心には決して微笑まないものだ。たとえそれがロボットの心であったとしてもだ。

 階段を登る顧客の足音はこのフロアを歩く足音に変化し、
 この部屋の扉の前まで来ると、
 扉は開かれ、

 私の仕事がさぁ始まる…


















  バタン!





 「ド○えも〜〜〜○!ジャ○ア○のやつが〜〜〜〜!!!」


  「どうした、の○太君!?
   まーたジャ○ア○にいじめられたのかぁい!!?」



          〜〜 おわり 〜〜