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悠久たる時を往く

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<分かたれた大陸の世> 五. 扉の時代



        諸種族の交流と争い。ハウグィードの戒め。


 “大暗黒紀”を経て、アリューザ・ガルドは地核の大変動が起こった。
 唯一の大地は二つに分断され、神殿エヴウェルを核とする世界の中心部、それと南西部の神殿都市ラディキアは海深く没した。
 今ではラディキア高山系の頂が、海上に頭を出しているのみであり、これをラディキア群島と呼ぶ。
 また北方では大地が隆起し、カダックザード、アリエスの高山地帯を形成した。

 長きに渡る眠りから目覚めた人間達には過去の記憶が薄れていたものの、壮麗な神殿エヴウェルが世界から失われたのを悲しみ、大陸を“エヴェルク大陸”と名付けた。
 この時代においては東方大陸であるユードフェンリル大陸の存在は人間には知られていない。“統一王国の時代”における種族移動により、はじめて明らかになるのだ。

 ディトゥア神族は、アリューザ・ガルドにとどまる決意を固めた者、次元の狭間にて世界の運行を見守る者との二者に分かれた。前者は“宵闇の公子”レオズスや、“エシアルル王”ファルダインが知られ、後者はイシールキア、“慧眼の”ディッセといった面々が知られている。



[人間達の勢力]

 目覚めた人間達はそれぞれの勢力を繁栄させていった。

 また、アヴィトにより与えられたハフト語は、次第に各種族ごとに微細な差違が生じるようになり、やがて各種族ごとの言語と化した。共通語であったはずのハフトは次第に廃れ、世界共通語はアズニール語が登場してくる千年後まで待つこととなる。

 セルアンディルは、イルザーニ地方を中心とした肥沃な平野を拠点とし、大いに栄えた。後にいさかいが起こるものの、“扉の時代”の大部分の時期においてセルアンディル達は平和な時代を送り、町を作りあげるのであった。やがていくつかの町は統合され、共同都市となる。

 エシアルルはあまり外界と交わらず、ウォリビア及びアブロットの大森林にてひっそりと暮らしていくこととなる。彼らの生活は現在に至るまで変わらない。
 ウォリビアの森林には巨大な木が生えていた。その太い幹は銀色であり、葉は落ちることなく常に青々と茂っている。エシアルルはこの大樹を神聖視し、“世界樹”と呼んだ。またディトゥア神族のファルダインが、この世界樹を住処としたことから、ファルダインはいつしかエシアルル王と称されるようになった。

 しかしこの時代において、もっとも栄えたのはアイバーフィンとドゥロームである。
 彼らは共に翼を有し、またそれぞれ風と火という武器を持っていた。なにより、その勢力範囲が隣接していたことが、彼らに戦いの道を歩ませることになった。



[天空の会戦]

 アイバーフィンとドゥロームの間で、小競り合いはしばしば起こっていたが、とうとう戦いの火蓋が切って落とされた。翼を持つ者としての尊厳にかけて、大空の領有を巡る戦いが始まったのだ。
 第一次会戦は一年間繰り広げられたが、突如世界を襲った大寒波のため、休戦を余儀なくされた。二年の異常気象の後、戦いはもはや起こらないとも思われた。しかし実際には両種族ともに戦力がまとめるための準備を行っていたのだ。
 三年後、再度戦いは幕を開けた。第二次会戦は実に五年にも渡り、熾烈を極めるものとなった。これはアリューザ・ガルドにおいて、最初で最後の空中戦争である。
 空を飛び交う両種族は、おのの持てる力を存分に発揮した。ドゥロームの放つ炎が大地を焼き、アイバーフィンの起こす嵐が草木を根こそぎ奪い取った。
 地上に住む種族は嘆き悲しんだが、アイバーフィンとドゥロームは常に空にあったので、地上の様子に関心を示すことなく、戦いはさらに激化していった。

 そしてついに戦いは最終局面を迎える。
 エシアルルの嵐とドゥロームの炎が激しくぶつかり、両軍ともに多大な犠牲者を出した。のみならず――風と火との融合された力が大地を襲ったのである。
 ラデルセーン地方は一瞬にして火の海と化した。アイバーフィンとドゥロームの多くが大火のために死んでいった。
 嵐を伴う大火はラデルセーン地方のみならず、北上していく。この凄惨な様子は、世界樹からも見て取れた。ファルダインは朱に染まる夜空を見て、イシールキアに上奏する決意を固めた。

 突如、天高くから滝のごとくに水がなだれ落ち、火の勢いが止まった。イシールキアの四匹の聖獣は海の水を巻き上げた後にひとところに集い、これを落としたのだ。
 火の勢いが止まると共に、アイバーフィン、ドゥロームの両軍は申し合わせたかのように兵を退いた。
 戦いはここに終結した。



[土の扉の占拠]

 時を同じくして、セルアンディルの小都市においてもいさかいが起こっていた。
 それまで商業において健全に競争を続けていた諸都市群であるが、世界を襲った大寒波により財政は破綻した。ようやく気象が正常に戻ったあとも経済情勢が好転することはなかった。やがて各都市はお互いの利益を巡って衝突、時には武力を伴った戦いまで起こるようになった。
 そのような中、共同都市ウヴァイルは、イルザーニ地方の聖地、“テュエンの扉”を占拠してしまう。扉を介してアリューザ・ガルドに現前する土の力、龍脈の利権を得たウヴァイルは、共同都市群の頂点に立つ。
 ディトゥア神族の忠告をも聞かず、彼らは利権の専横を続行するのであった。



[ハウグィードの戒め]

 裁きを司るディトゥア神族の“天秤の測り手”ハウグィードは、人間達の尊大な態度を改めさせるべく、ヴァルドデューンとイシールキアの名の下に戒めを与えた。

 アイバーフィン、ドゥロームからは翼を奪い取った。これ以降、彼らは各々の事象界に赴き、試練を受けない限りは、本来の力が発揮できなくなった。
 またセルアンディルからは“テュエンの扉”の所在を隠し、容易には土の世界の恩恵を受けられないようにした。

 これにより、翼を持つ民達が空を占有することは不可能になり、セルアンディルが地上の主権を得るようになる。翼を持つ民は、再び小さな社会においての生活に戻り、先の増長を戒めとして、再び野望を抱くことはなくなった。彼らは焦土と化したラデルセーン地方をあとにし、安住の地を求めて移動を開始した。
 エシアルルは、大森林の中でひっそりと隠者のごとくに営みを続けており、このような事態に無関心であった。アリューザ・ガルドと“慧眼のディッセの野”を行き来する彼らは、精神体としての側面が強く、アリューザ・ガルドのみに固執することがなかったのだ。
 地上の一大勢力となったセルアンディルであるが、ハウグィードの戒めによって土の恩恵を受けられなくなった痛手はやはり大きく、彼らはセルアンディルとしての力を急速に失っていくのである。やがて彼らは土の加護を自ら放棄し、“結束せし力”バイラルとなっていくのだ。
 バイラルは驚くべき結束力を持ってして共同体をまとめあげ、アリューザ・ガルドにはじめて、人間の王国を興すのである。






作品名:悠久たる時を往く 作家名:大気杜弥