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放課後不思議クラブ・大蔵ざらえ

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放課後不思議クラブ・大蔵ざらえ


 真っ赤に燃える太陽が本気を出した夏、ジリジリ照る奴の下で私たちは太陽に挑んでいた。うーん、暑い。
 黒木がじゃんけんに弱いことは周知の事実だった。放課後クラブの活動で鬼役を決めたら必ず彼だったし、昼休みのおつかいに黒木が当たらない方が珍しかった。
 だから今回、クラブ委員会のじゃんけんの末、年に一度の体育倉庫の蔵ざらえに駆り出されてもおかしくはないのである。
 このことについて、私たち放課後クラブのメンバーは誰も黒木を責めたりしない。私たちのリーダーは黒木の他にないし、彼はいつだって正しい。だから、土曜日だというのに制服を着て学校に集まり、更に指定ジャージに着替えて汗だくになりながら踏切板やら平均台やらを校庭に運ぶことを強制させられようと。
「あーばっちい」
「それより汗! もう、暑くて死にそう!」
「ちょっと、和馬しっかり持ってよ」
「俺もう駄目。溶ける」
「頼りになるの和馬だけなんだから、筋肉的に」
「黒木も久立も細いからねー」
 軍手を嵌めた私たちは、三人で跳び箱を運んでいた。ミナは半ジャーを更に捲くって、ギャル仕様の超ショートジャージにしている。白いふとももが眩しいが、それでも暑いのか。和馬は確かに暑そうだ。ジャージを忘れてきて、置きっぱなしにしていたウインドブレーカーを履いている。かくいう私は、中学時代に愛用していたバトミントンの競技用ユニフォーム下を履いている。ミナの様に捲くらなくとも、最初から短い。皆、上は学校指定のTシャツだ。
 体育館内の倉庫から出した跳び箱は、体育館から校庭に出て、広げられたブルーシートの上に並べられる。ここ最近はどの学年のどのクラスも使っていなかったのだろう、跳び箱は叩けば埃が出そうな程だった。
 じゃれ合ってないで働け、という体育教諭(機嫌が悪いのも頷ける。彼だって、休日を返上してわざわざ今日、肉体労働に勤しんでいるというのだから)の叱咤をスルーし、私たちは跳び箱の一番上を叩いた。案の定、白い煙が出た。

 もともと、私たち放課後クラブは特に決まった活動内容もなく、毎度だらだらとその時はやりの遊びや、新しく出来たコロッケの売店の視察なんぞをするのが通常運転だ。
 だからめったにない休日のクラブ活動(だってこのクラブは「放課後」クラブだ)で、学校に恩返しするのもいいかな、と一度はみんな納得したのだ。
 今日がこんなに暑くて、体育倉庫が思った以上に汚いことが、どうにもモチベーションが上がらない理由だった。年一回は整理しているはずなのに、どうしてこんなに汚いのだ。

「おい、こっちに来てくれ」
 体育館の中から、声がした。
「あ、黒木が呼んでる」
「そんなに駄目なの、あいつ」
「なんか様子がおかしいけど」
 私たちは駆け足で体育館まで戻り、出入り口の床に置かれた濡れ雑巾を踏んで、中に入った。いちいち靴を履きかえるのが面倒なので、中靴のまま出入りしているのだ。体育館内に黒木はおろか、先生も含む皆いない。
「倉庫の中かな?」
「相当な大物が出たと見た!」
「……高飛び込みのマットとか?」
「うわー勘弁して」
 うなじに伝う汗を手の甲で拭う。ああ、暑い。
軽口を叩きながら、私たちは倉庫の中に入ると、予想通り、久立、黒木、希代、そして先生が居た。しかし四人は高飛び込み用のマットではなく、もっと小さいものを囲んでいた。
「なあに、それ」
「いいから、ちょっと見てみてよ」
 久立がそう言って指を指したのは、私たちが普段使っている学習机。……ずいぶん古い。木製のやつだ。いや、それより。
「死ね」
 誰かがぽつりと呟いた。

 ミーン、ミーン。漫画みたいに蝉が鳴いていた。
 昼だというのに薄暗い体育用具倉庫で、小さな机を七人で取り囲んでいるのはなんとも奇妙な光景である。本人たちは、そんなことかけらにも気にしていないけれど。
「これは、あー……」
「いじめの痕跡みたいですね、先生」
 にやにや笑いながら、ミナが言った。だってスキャンダルだ、これは。
 その机の天板には「死ね」と、たった二文字だけれど痛烈な言葉が、深く彫り込まれていた。
「マジでか。誰だこんなことをするのは」
「相当怨念こもってんな、これ」
「いじめなんて、やる方も暇よねえ」
 和馬が机をゆっくりと擦る。「いてっ」ささくれた木に引っ掛けたようだ。
「でもこれはだいぶ前に使われていた机だからなあ、時効だ。卒業しちゃってるよ」
「ちょっと、仮にも教師が嬉しそうに言わないでよ」
「え、嬉しそうに聞こえた?」
 そういう先生の顔は、楽しいのか悲しいのかわからない表情をしていた。いや、無表情なのか。圭一もよくわからないって顔をしている。他の皆は、辛そうに眉を顰めていた。多分私も同じ顔をしているんだろう。
「それにしても、なんでこんな所にあるんだろうな」
「さあ」
 彫刻刀か何かで削られて、抉られて、ささくれ立った木の天板。これ自体が、何かの呪いのようですらある。気になって、ざらざらした天板を撫でるように手を滑らせる。すると、次の瞬間――

「わっ!!」
 両肩に、ドン! と衝撃が走って、私は尻餅をついた。突然の事に、皆が驚いてこちらを見ている。正直、私も何が起こったのかわからない。ひゅう、とぬるい風が吹いた気がした。
「おい、今おまえ……」
「壁に叩きつけられたみたいだった、何もないのに」
 大丈夫? と差し出してくれた圭一の手を取り、立ち上がる。びっくりして、ぽかんと宙を向いていた顔を下向けると、たり、と冬の寒い日の感覚。でも口の中には鉄の味が広がっている。これはアレだ。
「あ、鼻血出た……」