つかのまの永遠†コバルト短篇集
『夢幻砂廊』
婚礼の行列は地平線まで続くかと思われた。
花嫁を乗せた輿が王宮の中庭に着いても、列の最後尾はまだ城門にも達していない。
剽悍な騎馬の民・匈奴を北方に追いやり、拡張の一途をたどる漢帝国から輿入れする花嫁だ。帝国の威容を見せつける、それは豪奢きわまりない行列だった。
漢より隔たること一万里。大小七十余城の属邑を従える大宛国(フェルガーナ)は、かねてからの念願叶い、漢の公主を王都・貴山城に迎え入れた。
物資豊かで広大な領土を持つ漢と潤滑な通交を望んでいた大宛国は、幾度となく漢の公主を妃として迎え入れたい旨を申し入れていたが、それがついに実現したのである。
漢の都・長安を出立して敦煌に至り、陽関・玉門関をすぎて、楼蘭、亀茲、姑墨、莎車、疏勒、桃塊といった西域の国々を通り、公主は今ようやく大宛国にたどり着いた。
しずしずと下ろされた輿に、すかさず絹の傘が差しかけられる。照りつける太陽に灼かれた熱い石畳の上に、絹の沓(くつ)を履いた小さな足がそっと降ろされた。
贅沢な絹の衣装に身を包んだ、まだいくぶん幼げな面影の少女が、傘の淡い陰に心細げに佇んだ。公主は十五歳。もうすぐ六十になろうとする王に嫁ぐには、あまりにも若い花嫁だった。
迎え出た王族のなかで、ひとりの年若い王子が、悄然と佇む公主にはげしく目を奪われていた。今年十三歳になったばかりの第三王子、ワータである。その名はこの国の言葉で『風』を意味していた。
顔を俯けて歩きだす公主に、ワータは美しい鳥か蝶を見るような感嘆のまなざしを注いだ。美しく髷に結われた黒髪の後れ毛が、襟足で朝霧のようにそよぐ。すうっと軽く羽根で引いたような眉は、不安げに曇っていた。
この辺りでは珍しい一重瞼の切れ長の瞳が異国情緒をかきたてる。伏目がちに見え隠れする瞳の黒は、磨いた黒檀のように艶やかだ。
居並ぶ王族たちの視線にさらされ、公主はそのつぶらな黒瞳を怯えたように瞠った。
無理もない。大宛国の民は漢人とは顔だちも風俗もまったく異なるのだから。
公主は侍従に促され、中央の床几に掛けている老王の元へ進み、おずおずと跪いた。
「……漢の公主、楚憂(そゆう)と申します……」
大宛国の言葉だった。精一杯覚えてきたのだろう。緊張でかすかに語尾が震えている。
作品名:つかのまの永遠†コバルト短篇集 作家名:彩里美月



