つかのまの永遠†コバルト短篇集
『CHIT☆CHAT☆CAT〜なまいき猫とおしゃべり〜』
気がついたら猫になってた。
――――ちょっと待って。あたしってばマジ混乱してる。
落ち着いて深呼吸。
スー、ハー。はぁ。よし。
あたしの名前は沢口繭子(さわぐちまゆこ)。十五歳。中学三年。受験生。
――だよねだよねッ!? 猫じゃなくて女の子だよね?
猫は好きだけど、猫になりたいと思ったことなんかないよ!
なのにどうしてっ……!?
じっと手を見てみる。
泥水に濡れたピンクの肉球。にゅっと飛び出す尖ったツメ。背中の毛がぞわっと逆立つ。
あたしは叫んだ、つもりだった。
でも喉から出たのはニャーとギャーの中間みたいな音。あたしは猫の声で鳴きわめいた。どしゃぶりのシャッター街に人影はもうなかった。
発端は猫。
塾帰り、あたしは真面目に信号待ちをしていた。辺りはさびれた商店街。半数近くはつぶれてて、残る半分も今日はおしまいってことでシャッターを下ろしてる。
電気が点いてるのは今出てきた塾の教室くらい。それももう角を曲がって見えなくなった。わびしい水銀灯と信号機だけが唯一の明かり。それもどしゃぶりの雨で霞んでる。
吐く息が白い。十一月も終わりになると、この辺りはもう冬だ。もう少し気温が下がれば、雨はみぞれに変わるだろう。
すごい音をたてて雨がアーケードの屋根にぶち当たってる。風がないのがせめてもだ。
傘をさしたまま突っ立ってると、足元近くに猫が座っていることに気付いた。ぬれない場所を選んでちんまりとお行儀よく座り、じっと道路の反対側を見ている。
「信号待ちしてるの? 猫ちゃん」
周囲に人がいないのを幸い話しかけると、猫は人の言葉がわかるように振り向いた。ごくありふれたキジトラ猫だ。金色の瞳が水銀灯を反射してきらりと光る。
何だかすごく頭がよさそうな感じ。猫は黙って元の姿勢に戻った。しっぽの先が、「早く変わらないかなぁ」とでも言うようにゆらゆら揺れてる。
可笑しくなってくすくす笑ってると、猫は背を向けたままつーんとしたように見えた。
ごめんごめん、気を悪くしちゃった?
と、信号が青に変わり、猫は待ちかねたようにさっと飛び出した。つられるように小走りに横断歩道を渡り始めた瞬間、眩しい光が横から射して思わず目を細める。
どしゃぶりの雨の向こうから、まん丸いヘッドライトがふたつ迫ってきていた。
作品名:つかのまの永遠†コバルト短篇集 作家名:彩里美月



