つかのまの永遠†コバルト短篇集
『永遠(とわ)のほとり』
やっと辿り着いた。
城門をくぐり抜けたジムサは足を止め、肩ごしに振り向いた。赤い砂漠(キジル・クム)が夕陽を受けてルビーのように燃え立っている。まるで炎の海を越えてきたかのようだ。
いや、事実そうなのだ。目が眩むばかりにぎらつく太陽。乾いた血のような赤い砂。延々と続く酷暑。極度の乾燥で、汗が蒸発する音さえ聞こえる気がする。
それが今はどうだろう。まるで別天地だ。かぐわしい水分を含んだ涼風が街路を吹き抜け、心地よさにジムサはうっとりと眼を閉じた。
風は懐かしい匂いがした。水と緑と砂礫が複雑に入り交じる、オアシスの匂いだ。
暮れかかる城市(まち)は、昼間とは違った活気に包まれ始めていた。果物や麦、細工物や羊毛、布地などを売る露店が店じまいするのと入れ代わりに、酒場にはあかあかと灯が燈る。
疲れた、だが満ち足りた表情で我が家へ戻っていく人々。農業や牧畜に従事する城市の住民だ。路上では日に焼けた子どもたちが元気一杯に駆け回っている。
顔だちも服装も異なるさまざまな国の商人が、街角で情報交換をしている。どこからか音楽が響きだし、エキゾチックな踊り子の足首でしゃんしゃんと鈴が鳴る。
曲がりくねった路地の奥では、念入りに化粧を施し、目も彩な東西の衣装で着飾った女たちが、道行く羽振りよさげな商人に窓から流し目を送る。
西の大国バークトリシュと東の帝国セレスの間に横たわる広大な荒れ地(ダシュト)。そこには大小とりどりのオアシス都市群がひしめいている。その最も西に位置し、赤い砂漠(キジル・クム)のほとりで隆盛を極めているのが、ここ、カティガラ王国だった。
絹や香料、鉄や黄金を運ぶ隊商(キャラバン)が行き交う街道沿いにあり、豊富な水を利用した農業の他、通行税の徴収や商人のもてなしで大いに栄えている。異国情緒と猥雑な活気に満ちた巨大な隊商宿(キャラバン・サライ)とも称され、オアシス国家群のなかでも抜きんでた地位にある。
その賑わいは以前と少しも変わらない。前にここを通ってから、どれほどの年月が過ぎたことか。まるで昨日のことのようにも思えるのに。
背に負った荷物を担ぎ直し、今宵の宿を探しながらジムサは記憶を辿った。
作品名:つかのまの永遠†コバルト短篇集 作家名:彩里美月



