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つかのまの永遠†コバルト短篇集

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『真夜中すぎのレクイエム』



 重苦しい音をたて、頑丈な大扉が開く。
 ルクリーシャは鞘に収めたままの剣を無意識に握りしめた。肩ごしにほんの少しだけ振り向くと、怯えた顔の少女が大きく目を瞠って固まっていた。ルクリーシャは少女を安心させようと、ぎこちなく表情を緩めた。
「ここで待っていて。さっき渡した十字架、持ってるね?」
 少女は唇を震わせながら無言で頷いた。教会の祭壇から拝借してきた銀の十字架を、胸元できつく握りしめている。ルクリーシャは微笑んで少女の髪を撫でた。
「大丈夫。それを持っていれば安全だから」
 そう言い置くと、薄暗いランタンひとつを持っただけで、ルクリーシャは暗黒に閉ざされた城の奥へゆっくりと歩き始めた。
 この奥に奴がいる。十年前、ルクリーシャの弟を喰らった化け物が。
 崩れかけた城の礼拝堂の前で、ルクリーシャは足を止めた。十年前の悪夢のような記憶が蘇る。不運にも生贄に選ばれてしまった弟を助けたい一心で、後先考えず呪われた古城へ入り込んだ。さしたる武器も持たず、恐怖に震えながらこの扉の前で立ちすくんだのが、まるで昨日のことのようだ。
 ルクリーシャは礼拝堂の扉を開けた。がらんとした内部には、破れた高窓から満月の光が皓々と射し込んでいる。そして、瓦礫の転がる床の上には縛り上げられた子どもがひとり、無力に横たわっていた。
 シリル、と弟の名を呼びそうになり、危うく息を呑み込んだ。足音を忍ばせて近づいていくと、子どもの背が激しく震えているのがわかった。ルクリーシャはランタンを掲げ、子どもの顔を覗き込んだ。
「……ランドリュー?」
 恐怖に顔を引き攣らせていた子どもは、驚きに目を瞠った。ルクリーシャは剣を抜き、切っ先で少年を縛っている縄を切った。
「ケガはない?」
 床に膝をつき、ルクリーシャは立たせた少年の手足を確かめるようにさすった。少年は戸惑った表情で彼女を見返した。
「誰……?」
「私はルクリーシャ。フィゼリエに頼まれて、あんたを助けに来たんだよ」
 少年の顔がぱっと輝いた。
「お姉ちゃん!」
「姉さんは外で待ってる」
 ルクリーシャはきょときょと辺りを見回す少年の首に、小さな十字架のついた銀鎖をかけてやった。
「行き方はわかるね? 外の大扉のところに姉さんがいる。私が戻るまで、ふたりで待っているんだ。いい?」
「うん」