小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 http://2.novelist.jp/ | 官能小説 http://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

つかのまの永遠†コバルト短篇集

INDEX|102ページ/113ページ|

次のページ前のページ
 

『クー・ド・フードル〜落雷奇譚〜』


 父の埋葬に立ち会うため久しぶりに帰郷したのは、一八八八年の暮れのことだった。
 パリの街はクリスマスと新年の準備で浮足立つような華やいだ雰囲気に包まれていた。辻馬車を拾って駅へ向かう途中、大通りを進んでいると、練兵場(シャン・ド・マルス)に建設中の鉄塔が見えた。自然と誇らしい気持ちが込み上げ、私は窓に頬を寄せてほれぼれと鉄塔を見上げた。
 建設は現在急ピッチで進み、あと三箇月もすれば現代技術の粋を集めた高さ三百メートルの鉄塔が完成する。新聞には未だに塔を巡って様々な悪評が書き立てられていたが、来年革命百周年の万博が始まれば、誰もが登りたがって長い行列を作るに違いない。
 私はエッフェル氏の元で技師として働けることを改めて誇りに思い、満足感とともに深々と馬車の座席に凭れたのだった。


 何度も汽車を乗り継いでたどり着いた故郷は、十年前とまったく変わっていなかった。相変わらず辺鄙な、まるで時が止まってしまったかのような土地柄だ。
 ぬかるんだでこぼこの悪路を年代物の馬車に揺られて生家へ戻ると、先に到着していた妹たちが出迎えてくれた。ふたりとも結婚して余所の土地へ移り、現在この家に住んでいるのは私たちが子どもの頃から仕えている老いた執事だけだ。
 たったひとりでこの古い屋敷をよく守ってくれたが、彼もまた年老いて神経痛が悪化し、葬儀が済みしだい南仏(ミディ)の甥の元へ身を寄せることになっている。この家は、ついに私たち一族の手を離れるのだ。
 屋敷を売りに出すことは、ずいぶん前から妹たちと話し合って決めていた。
 古くさく陰気で、生まれ育った家ながらどうも好きになれなかったが、いざとなると不思議な懐かしさを感じ、私たちは思い出話をしながら暗くなるまで屋敷中を歩き回ったのだった。
 翌日、雲が低く垂れ込める曇天の下、父の棺は教会墓地の片隅に葬られた。
 誰も口にはしなかったが、全員が奇妙な感慨を抱いていることは確かだろう。真新しい深い穴のなかに下ろされた父の棺に入っているのは、眼鏡と靴、服が一式だけで、肝心の遺体は存在しない。
 十年前に行方不明になった父の消息は、未だにわからないままだった。