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つかのまの永遠†コバルト短篇集

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『マグノリアの咲くとき』




 静かな夜だった。
 レイラは高鳴る鼓動を抑えきれず、窓を開け放すと果てしない夜空を振り仰いだ。
 美しい、夜だ。満月を明日に控えた月は冴え冴えと輝き、星は銀の鈴を連ねたように瞬いている。
 そして、この静けさ。レイラには何よりもそれが嬉しい。夜鳴鶯(ナイチンゲール)の澄んださえずり。噴水を流れ落ちるかすかな水音。そんなあえかな響きにうっとりと耳を傾けていられるほど、王宮も中庭も平穏で静かだった。
 城壁を見回る歩兵の足音や剣の金具が触れあう音からも、殺気立った緊張感がやっと抜けてきた気がする。
 今や、この城はレイラのもの。先王崩御から続いた内乱を鎮め、レイラは懐かしい王城のあるじとなった。
 そして明日レイラは戴冠し、正式にマグノリア王国の女王となる。母の夭折後、父王やその取り巻きの貴族たちから冷たく打ち捨てられていた無力な王女が、若干十五歳にして玉座に着くのだ。
 それを思うといっそうドキドキして、レイラは胸を押さえた。
「……大丈夫かな」
 急に不安になり、独りごちる。
 段取りを間違えないだろうか。大司教さまの前でマントの裾を踏んだり蹴つまずいたりしたらどうしよう。
 ここは一番、女王としての威厳を見せなきゃいけない時なのに、醜態をさらしたりしたら、せっかく盛り上がってるお祝いムードがだいなしになっちゃう……!
 無意識に窓枠をぎりぎりと握りしめるレイラの背後で、おとなしやかな声がした。
「姫さま」
「なにっ」
 反射的にとげとげしく叫んでしまう。振り返ると、レイラと同じ年頃の侍女が蒼白な顔で立ちすくんでいた。レイラは慌てて作り笑いをした。
「ごめん。ちょっと考え事をしてたんだ」
「も、申し訳ありません。お邪魔をいたしまして……」
「いやいやっ、べつに怒ってないから」
 平身低頭する侍女に、レイラはバタバタと両手を振った。
「なに? 何か用?」
「騎士さまが、お目通りを、と」
「えっ、デュノランが?」
 ぱっと瞳を輝かせ、レイラは侍女をせっついた。
「だったら早く、通して通して」
 額に浮かんだ汗を袖口で押さえているうちに、侍女に案内されて長身痩躯の青年が現れた。慇懃に礼をすると、剣を吊った銀の留め具が冴えた音を発した。