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ゆらのと

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第二部 十二、


四阿は影が落ちていて少しましであるものの、それでも暑い。
屋敷内の空調は完璧で心地良くすごせるようになっている。
しかし、暑い外にいて、桂はいくぶんほっとしていた。
外とはいえ高い塀に囲まれた庭であるのだが、室内にいるよりは閉じこめられている感じがしない。
この四阿にはトアラに案内されてきた。
だが、今、トアラはいない。
しばらくこの四阿で話をしたあと、去っていったのだ。
桂を庭でひとりにして息抜きをさせてやろうという、彼女の配慮なのかもしれない。
どのみち、逃げられないのだから。
ふと、ひとの気配を感じた。
四阿の近くに低木が生い茂っている。その葉がガサガサッと鳴った。
「ヅラ」
ひそめられた声が呼びかけてくる。
小声であっても、その声の持ち主がだれであるのか即座にわかった。
夜兎族の少女の姿が頭に浮かんだ。
桂はわずかに表情を揺らした。だれかに見られているおそれがあるので、驚きを顔に出してはいけない。
あたりの風景を興味深く眺めているふうをよそおい、声のほうを見る。
低木と低木のあいだから、豚耳と豚鼻をつけた少女の顔がのぞいている。その隣にはカッパのような格好をした少年の顔もあった。
つい噴きだしそうになって、自制する。
妙な変装ではあるが、かわいらしいと感じた。
心が明るくなる。
「ひさしぶりだな」
おさえた声で告げた。
ふたりとも変装をしていて宇宙海賊の一員と見なされているようなので、この庭のどこかにいるかもしれない者たちに内容がわからないようにすれば、話をしていても変だとは思われないだろう。
「まさか、こんなところまで来てくれるとは思っていなかった。銀時から聞いているかもしれないが、あらためて礼を言う。ありがとう」
「……ヅラ、大変アルな」
沈んだ表情で神楽が言った。
「まあ、たしかに、それはそうだな」
心配をかけたくないので否定したいところだが、否定しようがない。
「僕たちが絶対に助けますから、期待しておいてください」
新八の顔からは強い意気込みが感じられた。
「だが、あまり無茶はせぬほうがいい」
ふたりの実力は信頼するに足りる。
しかし、ここは地球から遠く離れた星で、まわりには宇宙海賊など敵が多く、味方は少なく、逃げるのは難しい場所にいて、さらに逃げる先もないという、状況の悪さだ。
「するなと言われてもするかもしれません」
「新八君」
「桂さんがこんなところまでつれてこられたのは、僕たちのせいでもあるんですから」
「いや、それは違う。この屋敷の主が江戸に来たときに俺に眼をつけて、こんなことになったらしい」
「でも、僕たちを狙うって、脅されたんでしょう?」
銀時あてに送りつけられた脅迫状のことだ。
別れなければ身近にいる者に危害が及ぶだろうという手紙には、新八と神楽の写真が同封されていた。
そして、それでも別れずにいたら、万事屋が爆破されたのだ。
「脅迫状のこと、もっと早くに知りたかったアル。教えてほしかったアル」
神楽がすねたように言った。
作品名:ゆらのと 作家名:hujio