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ゆらのと

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第二部 六、


カンカンカンと軽快な音をたてながら、銀時は金槌で釘を打ちつけていた。
だが、その手が止まる。
次の瞬間。
「ブエックションッ」
派手なくしゃみをした。
近くにいた神楽がギャーと悲鳴をあげる。
「汚いアル! 銀ちゃんのつばが飛んできたアル!」
「なに言ってんだオメー、俺のつばは汚くなんかねーよ」
そう言い返し、銀時は鼻をすすりあげた。
新八が作業していた手を止め、近づいてくる。
「神楽ちゃんは潔癖性になるお年頃なんですよ。年頃になると、急にお父さんを避けるようになったりするって言うじゃないですか」
「俺ァ、こいつのお父さんって歳じゃねェ」
「新八ならありえないけど、銀ちゃんならありえるネ」
「ねーよ。俺ァ、こう見えて、昔は、まじめなことで有名な少年だったんだからな」
「絶対、嘘アル」
「絶対、嘘です」
最後は神楽と新八の声がぴたりと重なっていた。
もちろん嘘だ。
しかし、なにか言い返そうと考え、ふと、自分が少年だった頃のことを思い出す。
まじめではなかった。
勉学については、よくなまけていた。
そんな自分に対し、ちゃんと勉強しろと、堅い表情で説教をする少年がいた。
その整った顔が脳裏に浮かぶ。
銀時はまた鼻をすすりあげた。
面影をうち消すように。
「銀さん、もしかして風邪ひいたんですか」
「あー、違ェよ。ほら、アレだ、花粉症だ」
「この時期に花粉は飛んでませんよ」
「……まァ、アレだ、ちょっと寒いだけだ」
つかのま返事に窮したが、どうにか言い返せた、
すると。
「たしかに、寒いですね」
そう言い、新八は室内を見渡した。
爆破されて半壊状態なので、風通しがいい。良すぎるぐらいだ。
今日は三人で万事屋の修理をしている。
「……それにしても大丈夫でしょうか」
「ああ?」
「こんな状態で、仕事の依頼、くるんでしょうか」
修理とかでお金がかかっちゃうのに、と新八は付け足した。
たしかにそのとおりだ。
こんな状態では仕事の依頼はしづらいだろう。営業しているかどうかもわからないのではないか。
しかし。
「なに言ってんだ、くるに決まってんだろ、なにしろ、俺ァ、日頃の行いがいいんだからなァ」
まったく気にしていない様子を装った。
「銀ちゃんの日頃の行い、良くないアル」
「銀さんの日頃の行いがいいとするなら、ほとんどの人の日頃の行いがいいということになるんじゃないですか」
神楽と新八が口々に言った。
その直後。
「ごめんください」
玄関から、訪れを告げる女の声が聞こえてきた。
作品名:ゆらのと 作家名:hujio