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御堂さんちの家庭の事情

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「ねえ、家の床をフローリングにして床暖房をいれようか」

 ある日、ママがいきなりそんなことを言い出した。
 テレビのCMを見て、「エアコンより暖かそう」なんてうっとりしちゃったのが原因だ。我が家のサイフの紐は、パパが居ない時はお兄ちゃんが全面的に握ってるので、当然お兄ちゃんの反対があるものだと思っていたら、当のお兄ちゃんが意外とあっさり「いいよ」なんて言ってしまったのでビックリした。
「いいの?お兄ちゃん。お金すごくかかるんじゃない?」
「ああ、かかるだろうけど、そろそろここに越してきて十年だろ?絨毯張替えの時期だし、それにこの際フローリングにしたほうがダニだのなんだのって、いわゆるハウスダストってやつが減るかなーなんて……そしたら冱の喘息にも良いだろうし」
 ママがそんなことを言い出した朝ご飯の席。あたしが聞いたら、お兄ちゃんはママのトーストにバターを塗ってあげながら頷いた。
「毎日シャカリキんなって掃除機かけるよりは、将来的に見れば経済的かもしれないし、ガス式にすれば光熱費もかなり安いって言うしなぁ。工事費なんかは父さんからの仕送りやりくりして貯めてた金があるから、それでどうにかなると思うし……ほら、母さん、零すなよ」
「母親を子供扱いしないでよ、もう……ねえ、じゃあ工事頼んじゃって良い?」
 唇を尖らせながらトーストを受け取ったママが、子供みたいにお兄ちゃんに聞く。子供扱いするなって言う割には、ママはお兄ちゃんには弱い。お兄ちゃんがパパに似てるからだと思うけど。栗色の髪に茶色の目って言う、どっちかって言うとママよりな外見のあたしや巽と違って、お兄ちゃんは髪も目もパパ譲りの黒だし。
「でも兄さん、とりあえずお父さんに聞いてみたほうがいいんじゃない?床暖房入れるって、工事しなきゃダメなんだよね。それって家の中に大工さんが入るってことなんだし、万が一も可能性はないと思うけど、一応用心のために」
「うーん。それもそうだなあ……」
 あたしの隣でもぐもぐコーンフレーク食べながら巽が言って、お兄ちゃんが渋い顔をした。
 家には、他所さまの家にはないだろうちょっとした決まり事が幾つかある。その中には「家の中にあまり他人をいれない」と言うのがあって、でも日常生活にはあんまり支障がないから(友達を呼ぶときだけちょっと困るけど)、普段はほとんど忘れている。
 お兄ちゃんはちょっと考え込んだ後で、がりがり頭をかいてから溜息をついた。
「まぁ、どうせ入れるにしても今すぐってわけじゃないんだし、今夜にでも父さんにメールで聞いてみるさ。さあ、さっさとメシ食って支度しないと学校遅れるぞ、チビども!」
 お兄ちゃんが言って、手を叩いた。
 あたしと巽は時計を見て、それから大急ぎでコーンフレークをかきこむ。
 家から学校まで、歩いて二十分かかるのだ。ランドセル片手に飛び出していくあたしたちを、朝ご飯の後片付けに忙しく立ち働くお兄ちゃんの横で、ママが優雅にトースト齧りながら笑顔で「行ってらっしゃい」って見送るのは、我が家のいつもの光景で。
「冱、喘息の薬持った?忘れて家までとりに戻るの、僕いやだよ」
「持ってるわよバカタツ。お姉ちゃんに偉そうな口きかないで」
 巽が言って、あたしが言い返した。半目であたしを睨んだ巽を追い越して玄関から外に出れば、玄関脇に置かれた犬小屋から甲高い声がかかる。
「おはようございまする、小若様(ちいわかさま)、小姫様(ちいひめさま)!今朝も早くから何処にお出かけでござりまするか!」
「やぁ、おはよう、ガルちゃん」
「いつもの学校よ!ほら巽、急がないと遅刻しちゃう!あ、ガルちゃん、今日雨降る?」
 振り返れば、番犬チワワのガルちゃんが、尻尾をくるくると狂おしく振りながらあたし達を見上げていた。
 ランドセルを背負い直しながらガルちゃんに聞くと、ガルちゃんはぴょんぴょんと跳ねてあたし達に飛びつこうとしながら、ひゃんひゃん甲高い声で言う。
「いいえ、いいえ。今日は空気が果てまで澄んでおります故、一日良い天気が続きましょうぞ。ですがくれぐれもお気をつけあれ、御子様方。雨は降らずともいかな災難が御身に降りかかるか……」
「また、ガルちゃんは心配性なんだから。大丈夫だよ、車には気をつけるし」
「そうよー。そうそう車に撥ねられたりしないったら。じゃあね、行って来まーす!」
「ああ!そんなご無体な!せめて学校までお見送りを、小若様、小姫様ーーー!」
 あたし達に飛びつこうとするガルちゃんをひらりとかわして、門から外に踏み出した。背後で響くガルちゃんの情けない声に笑って、早足に学校へ向かって歩き出せば、ガルちゃんの言うとおり今日は空気が澄んでいて、町の景色がよく見える。
 遠くの水道塔や電車の響き。自転車のベルの音に朝特有の霞み。青空は遠くどこまでも澄んでいて、太陽の光がとても眩しい。
 ガルちゃんの天気予報は、良く当たる。
 きっと今日は、とてもいい天気になるだろう。





■■■





 家は、ご近所さんには「父親が長い事不在だけど、仲良しな5人家族」だと思われている。
 巽とあたしは双子の姉弟で、十歳の小学校四年生。現在我が家の大黒柱的役割も担っている十一歳上の嵐お兄ちゃんは、二駅先にある私立大学の三年生だ。本来その位置に居るはずのパパは、あたしたちがここに引っ越して来てからずっと地方の会社でサラリーマンをしていて、家には滅多に帰ってこない。いわゆる単身赴任と言うやつね。
 他に変わったところと言えば、ママが金髪碧眼の外国人だってことぐらいだろうけど、最近は国際結婚も珍しい事じゃないみたいだから、そんな変わった事でもないのかもしれない。あとは、そのママがものすごい不器用っていうか本気で何も出来ない人で、家事の大半(っていうか全部)がお兄ちゃんとあたしたちの仕事だって事と、番犬チワワのガルちゃんが犬の癖に人の言葉を喋るのも変と言えば変だろうケド、それ以外は本当にどこにでもいる普通の家族だと思う。
 けどママ曰く、家は本当は「人類の敵一家」だと言う。住んでるところは、お世辞にも都会とは言えない小さな町の閑静な住宅街だし、家だってこじんまりした一軒家+犬小屋で、人類の敵一家の住まいとしてはものすごく質素だと思うんだけど、騙されてはいけないらしい。
 悪の基地にありそうなハイテク機器なんてパソコンが一台ぐらいしか見当たらない上、パソコンを使えるのはお兄ちゃんとママがちょっとだけだし、それもお兄ちゃんが大学のレポートを書いたり、インターネットでメールぐらいしかやってないんだけど、それは世間でのカムフラージュ。夏休みには家族で旅行に行って、お土産はきちんと近所に配るし、町内会のゴミ拾いにだって参加する。回覧版だってちゃんと回すし、隣の家のおばちゃんに挨拶されたら笑顔で「こんにちわ」だってきちんと言えるのに、家はどうしても「人類の敵一家」なのだ。
「だからね、あたしたちってもっと、悪の手先っぽく悪いことをするべきだと思うのよ。さしあたり家の前に毎朝糞をしていく佐藤さんとこのバカ犬をこらしめてやろうと思うんだけど、どうかしら」