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きみこいし
きみこいし
novelistID. 14439
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アルフ・ライラ・ワ・ライラ8

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「なんて、大きな門なの」
ぽかんと口をあけ、イオは目の前にそびえる巨大な楼門を見上げる。
「ま、田舎の学舎とは比べるまでもないな」
小馬鹿にした様子のジャハールを軽くにらむと、気分を切り替えてイオは学舎の門をくぐった。門番に来訪の用向きを告げると、学院の奥を目指せという。
長い回廊をきょろきょろと見回しながら進んだ先に、その建物は見えてきた。学院の端、堅牢な石造りの館。扉をくぐると、静寂と蓄積された知識の香りがイオの鼻腔をくすぐる。懐かしい空気に、イオは思わず息をついた。
窓を覆う薄布を通して、かすかな光の中に浮かび上がるのは膨大な書物の群れだ。
「すごい」
「ようこそ、この国の知識の泉。その根源へ」
「あなたは・・・」
書物の間から進み出た人影にイオは目を向ける。背の高い老人だ。長い髪と髭は白く、浮世離れした風情といい、まるで書物の化身のような印象をうける。
「ハキム王子から話は聞いとるよ。わしは魔術師のアーレフ。この学院の書庫の番人じゃ。イオというのはお前さんかい?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「ふむふむ。よい目をしているの」
イオの顔をまじまじと覗き込むと、アーレフはにこりと笑う。
「で、噂の魔神は・・・」
目ざとくイオの背後に無愛想にたたずむ男を見つけると、アーレフは満面の笑みを浮かべ、あっという間にジャハールの前にとんでいく。実に好奇心旺盛な老人だ。
「ほほう、おぬしが。ふむ、これはまた愉快愉快。実に興味深い」
「よせ、触るな」
邪険に手を振り払う魔神を恐れる様子もなく、きゃいきゃいと浮かれている。まるで子どもがおもちゃを目にした時のような、無邪気な表情だ。
「ん、はて?もう一つ不可思議な気配を感じるが・・・」
「ああ、それは」
イオは懐から香炉を取り出すと、軽くこすった。すると吹き出した煙が形をなし、煙の精霊、マムルークが現れた。
『なんか用か?イオ』
「こっちは煙の精霊、マムルークです」
「うほほ、これもまたずいぶんと興味深い」
じろじろ、ぺたぺたとマムルークを触り、観察するアーレフに煙の精霊はタジタジだ。
『げっ、なんだよ、このじいさん。やめろ、突つくな』
「ほら、マムルーク。挨拶して」
アーレフの魔手を逃れ、ジャハールの背後に隠れたマムルークをにこにこと見やりながら、老魔術師は口をひらく。
「結構結構。どうやらイオ、そなたは魔神や精霊に縁があるようじゃな。すべての出会いに意味がある。ここでお前さんが学ぶことにも、きっと意味がある。しっかり学びなさい」
長きにわたりたくさんの物事を見てきた老魔術師の言葉に、イオは深くうなずいた。
「はい」





老魔術師は、その外見からは想像もできぬほどの身軽さで、すいすいと書物の間を移動する。そして器用に書物をよけ、あいた空間をつくると、書物の下から古びた絨毯をひっぱり出し、腰を下ろした。
同じように書物をよけ、イオも腰を下ろす。ちなみに、ジャハールとマムルークは老魔術師の相次ぐ質問攻めにうんざりし、さっさと姿をくらましてしまった。
「さて、イオ。何を学ぶ?ここは知恵の宝庫、知識の泉、叡智の館じゃ。お前さんのどんな探求にも応えてくれるじゃろう」
「・・・実は、この指輪を外したいのですが」
そう言って差し出したイオの指におさまった指輪を、老人はしげしげと眺める。
ひそやかな室内に、黒い石が妖しく光を放っている。
「ほう、これはまた古い指輪じゃな。台座にエルム語が書かれとる」
「エルム語?」
「うむ、遙か昔。はじまりの言葉じゃよ」
「はじまりの言葉・・・」
「さて、これは忙しくなりそうじゃ。さっそく調べにかかろうかの。お前さんにも手伝ってもらうぞ、イオ」
「はい、老師」




さすがは王都、そして、この国一番の魔術師の学舎だ。
積み上げられた書物、その膨大な量にイオは目をむく。アーレフ老師の指導を受け、イオは連日、指輪に刻まれたエルム語の解読を行っていた。と同時に、物語や伝説にえがかれる魔神や精霊について詳しく調べることにした。
実際にアーレフ老師が危惧したように、失われた古代の言語、エルム語の解読は難航を極めた。何日もまったく進まず、煮詰まっていたかと思うと、思いもしない書物から、文字が読み解かれる。
早朝から夜更けまで、イオと老師は大量の書物に目を通していった。
「さて、今日はウルクの古文書の写しから調べることにしようかの。イオ、そこの木箱をとっておくれ。そう、その魔除け紋の入ったものじゃ」
「はい」
「・・・それにしても、お前さんの魔法、『灯り』の魔法は便利なもんじゃな。わしの老いた目に心地よく、書物も傷めることもない。ありがたい魔法じゃ」
しょぼしょぼと翳む目をこすり、アーレフ老師はつぶやいた。
その言葉に、木箱を抱え上げる手を止め、イオは思わず顔を上げた。
貴重な書物を日灼けから保護するため、書庫の窓には常に薄布がかけられ、光量が制限されている。だが、細かな文字を読み取るには、明らかに光量不足だ。そこで書物を破損しないイオの『灯り』を出して作業をしていたのだが。
「老師・・・」
思わぬ言葉にイオがポカンしていると、老人はにっこりと微笑む。
「うむ、実によい魔法じゃ」
その瞬間の気持ちを、なんと表現したらいいのだろう。
言いしれぬ感情がこみ上げる。胸の奥が熱くて、ぎゅっと締め付けられて、それでいてくすぐったい、不思議な感覚だ。
「あ、あの・・・ありがとうございます」
頬を染めて木箱を書物台に置き、もごもごと口の中で礼を言うイオをおかしそうに見やると、老師はこの微笑ましい弟子に次の指示を出す。
「うん、ありがとう。では、本館からウルク語の字源を持ってきてはくれんかの。なにせ久しぶりのウルク語じゃ、あれがなくては解読も進まんでな」
「はい」
はじけるような返事とともに飛び出したイオを見送り、老師は巻物に目をおとした。