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エイユウの話 ~夏~

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それが彼女を解放したか?


「ラジィ!」
「!キース、何であんたここにいるの?」
 ファン倶楽部の部室で教科書を見つけたラザンクールは、目を丸くしてキートワースを見た。リーチが長く、運動神経のいいキースが、ラジィに追いつくのに、そんなにかからない。とはいえやはり走り出した時間だとか、部室の場所だとかが入ってくると、走っている間に追いつくのは難しかったようだ。
 追いかけてきたキースに、ラジィはアウリーを放ってきたことは責めた。けれどもそれ以外は何も責めることはない。彼が自分を気遣ってくれていることはわかるので、責めるに責められないのだ。結局「しょうがないわね」と笑って許してしまった。
 二人は小走りで教室に向かう。初めの曲がり角を曲がったところで、キースの心配していた保健室の近くに着いた。珍しく保険医がいるようで、保健室の電気がついている。曇ってきたから、電気が必要になったのだろう。そこでラジィが足を止める。見る見るうちに嬉しそうな顔になり、その原因をこぼした。
「導師様の声がする!きっと保健室に資料を借りにいらしてるんだわ!」
 もともと流の導師は今回のような場合に限らず、保健室の資料を用いることを唯一許されている位である。というのも、保健室の蔵書は大抵が過去の流の導師からの贈与品であり、貸借物であるからだ。紙一枚一枚を写すコピーの魔法はあれど、千万単位のページ数を誇る蔵書を何十冊もコピーするには、いくら時間が合っても足りやしない。それが特別視される原因である。
 そのため、保健室から流の導師の声が聞こえたとしても、それが多少の内緒話のようなものでも、大抵はその資料の貸借、またはそれに関係した話だと思うのが普通だ。ラジィの考えもそれな訳で、決して可笑しいことは何も無い。
 が、諸事情を察したキースにとっては話が違った。先ほど保険医を探していた理由が、そこに存在するとしか思えなかったのだ。彼女が知ってしまう前にと、彼は彼女をせかした。
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷