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金銀花

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《07》人助け



 朝、鳥の鳴き声で早苗は眼を開けた。
暖かさを感じ、ふと見ると夫の腕の中だった。
 目をつぶったままの彼の顔は、鬱憤、不安がなくなり、安心しきった安らかな寝顔だった。
男前のその顔をチョンと人差し指で突いてみた。
 
「……助さん」
 
 すると眼が開いた。

「……ん? どうした?」

「あ、起きちゃった?」

「いいや。もう起きてた」

 すると、再び助三郎は早苗を抱きしめた。

「なに?」

「離したくない。……俺の早苗」

 しばらくされるがまま、夫の腕の中にいた。
男同士で離れていた日々を取り返すかのように、しっかり自分を抱きしめる夫が早苗は愛おしかった。
 しかし、互いのお腹の虫は甘い雰囲気など考えてはいなかった。
 

「……御飯食べる?」

「あぁ。もらってきてくれるか?」

「目つぶってて」

「なんで?」

「ここ、藩邸でしょ? わたしは居たらいけない人間。格之進になるから、見ないで」

「わかった」

 早苗は部屋の隅で格之進に変わると、台所へ向かい朝餉を要求しに行った。
気配が消えると助三郎は布団をかたずけ、寝間着から着流しに着替えた。
 それが終わったころ、部屋には早苗が朝餉の支度を済ませて座っていた。
 
「食べましょ」

「あぁ」

 久しぶりの夫婦の食事。静かな部屋で二人きり。夫婦に言葉は要らなかった。
向かい合ってゆっくりと朝餉を済ませ、幸せな時間を堪能した。
 食事も済ませ茶を飲んでいると、助三郎は今日一日の提案をした。

「今日も御老公は表でのお仕事だ。俺らは暇だ」

「うん」
 
「だから、ちょっと一緒に行かないか?」

「このままで? それとも、格之進で?」

「早苗がいい。だが、髪は町人にしてくれ」



 二人は姿を町人にやつし、新助の家に向かった。
もちろん、誰はばかることなく手をしっかりつないで。
 新助の家へ着くと、ちょうどお考が箒で家の前を掃いていた。
早苗は駆け寄り、久しぶりの再会を喜んだ。

「お考ちゃん!久し振り!」

「あ、早苗さん!」

 女二人がおしゃべりに夢中になっている姿を、助三郎は黙って見ていた。
それに気づいた新助も、隣で眺めていた。


「新助、ありがとな。早苗が帰って来てくれた」

「良かった。助さんに効く一番の薬は早苗さんだ」

「あぁ、あいつさえいてくれれば俺は何も要らない。俺の宝だ」

「幸せですね、助さん」

「あぁ。お前も幸せになれよ」

「はい」

 
 互いの相手を愛おしそうに眺めた後、仕事の話に入った。

「で、例の件だが……」

「その格好で来たということは、身分を隠して近づきますか?」

「あぁ。うちの藩じゃ向こうが驚いて何も言わなくなる。佐々木助三郎と渥美格之進でなくて、助と早苗で行く」

「わかりました」

 手短に計画を立て終わった男二人だが、女二人はまだおしゃべりしてた。
口を挟むと、怒られそうだったのでしばらく様子見していたが、なかなか終わりそうもなかった。

「しかし、女は本当に話すのが好きだな」

「お考ちゃん、そこらじゅうに友達できていっぱいしゃべってますが、話題がつきないんですかね?」

「だよな? 女は謎だ」

 昨晩別れた格之進がふっと助三郎の脳裏をよぎった。
彼はおしゃべりな男ではない。どちらかというと硬派。

「そう言えば、早苗って格さんになるとあんまりしゃべらないんだよ」

「へぇ。面白いですね」

「中身一緒なのにな」

「それで、助さん切り替えが上手くできますか?」

「あぁ。友達と妻の境はちゃんと見極めてる」

 新助は助三郎に感心した。
その間に、女二人は話にきりをつけたようだった。

「あ、終わったみたいだ。行くよ、お考ちゃん」

「はーい」

 
 助三郎は、自分のもとへ戻ってきた早苗を迎え再び手をつないだ。

「楽しかったか?」

「うん。またあとでしゃべるけど」

「…………」

 友達の時と、妻の時とはどうしてこうも差があるのかと改めて不思議に助三郎は思った。


 新助に連れられ、堀部家の屋敷に到着した。
小藩の侍らしく、質素な住まいだった。
 大藩で、家格も上層部である紀州藩の与兵衛の屋敷や、水戸の佐々木家とは比べ物にはならなかった。

 お考の紹介で、早苗と助三郎は安兵衛の妻、ほりと面会した。
安兵衛は出仕中、父の弥兵衛は外出中ということだった。

「初めまして、早苗と申します」

「助と申します」

「ほりです。よろしくお願いします。お考ちゃん、この方々が?」

「はい。相談に乗ってくれます」

「では……」

 ほりは、神妙な面持ちで話し始めた。


 困っていることとは、嫌がらせだった。
有名な夫、安兵衛への執拗な嫌がらせ。
 彼は高田馬場の仇打ちで一躍名をあげ、浪人から一転、現在では赤穂藩士に収まっている。
ほりの父親、弥兵衛がどうしてもと懇願した所、並居る諸藩の中から赤穂藩の堀部家を安兵衛は選んだ。
 そのことが発端だった。
 あきらめがつかない藩が、どうにかして安兵衛を手に入れようとあれやこれやの嫌がらせをしていた。
 いちゃもんをつけて、喧嘩を売り、暴力沙汰で赤穂藩からのお咎めを受けさせようとする。
 危ない話を持ちかけ、脱藩させようとする。女を近づけて誘惑する。
 さまざまなことが起きているという内容だった。

 最後に、ほり本人から恐ろしい内容を皆は聞いた。

「……最近、わたしまで狙われています」

「え? ほりさんまで?」

「はい。あの人は婿なので、わたしさえいなくなれば用はない。新たに仕官の口を探すはずだと……」

「そんな……」

「そういうものです。わたしには子がまだいませんので……」

 早苗ははっとした。
武家の妻の一番の仕事は、子を産み育てること。
 三年子無きは……という言葉が当てはまる武士の世界。
婿の場合は、男のせいにされるが、嫁の場合は完全に女のせい。
追い出されても文句は言えない。
 まだ早苗には時間の余裕があったが、ふっと怖くなり、助三郎をうかがった。
 彼は早苗の不安を感じ取ったかのように、微笑んだ。
『だいじょうぶ』その眼は言っていた。
 
 そこへ、男がはいってきた。

「戻ったぞ」

「はい! 皆さん、そのままでどうぞ」

 男はほりの夫、安兵衛だった。
裃姿で部屋に入って来、新助とお考に挨拶をした。

「これはこれは、新助さんにお考さん。こんにちは」

「こんにちは、あの、こちらが……」

 新助が傍の早苗と助三郎を紹介しようとすると、安兵衛はすぐに畳に座り、丁寧に挨拶をした。

「はじめまして、安兵衛と申します」

「助と申します。こっちは妻の早苗です」

「よろしくお願いします」

 安兵衛は武士だからとお高くとまるような男ではなかった。
それだからこそ、新助が知り合い仲良くなったのだと助三郎は直感した。
 同時に、彼自身も仲良くなりたいと思っていた。
 
 少しほりと言葉を交わした後、安兵衛はこう言った。

「妻が厄介な相談をしたみたいですが、気になさらないでください。そちらに危害が及んでは、面目が立ちません」

「いいえ。人助けが趣味みたいなものなので」
作品名:金銀花 作家名:喜世