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雪割草

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〈42〉城へ乗り込め!



それから大分待たされた。
早苗は鍛練に疲れて、助三郎は早苗が相手をしてくれなくなったのでつまらなくなって、二人でうとうとと昼寝をしていた。

「佐々木殿、渥美殿。起きてください。登城しますよ。」
と与兵衛が起こしにきた。

すでに夕暮れが近かった。

「あぁ!すっきりした。昼寝で疲れが取れた。」

「こっちはつまらなかったんだからな。せっかくほかの鍛錬もしようと思ってたのに。」

「そういうこと言ってお前も昼寝してただろ?」

「まぁ…。」


光圀のもとに向かうとすでにご隠居の格好ではなく、
水戸の御老公の姿になっていた。
傍には若君も途上に合わせた身なりをして座っていた。


「御老公、今から登城するのですか?」

「知らせに行ってから返事が返ってくるまで時間がかなりかかった。絶対に何かを仕組んで待っておる。気をつけねばならん。」

「具体的には?」

「出されたものは口にしてはいかん。毒が入っておる可能性がある。」

「わかりました。」

「お前さん二人はいつでも襲われてもいいように気構えだけは忘れないようにな。」

「はい。」



その頃与兵衛は由紀に見送りされていた。

「御無事で御戻りください。…晩御飯作って待ってますから。」

「由紀の御飯食べたいから絶対に戻ってくるね。心配しないで。」

「ご武運を…。」




城の中には難なく入ることができた。
早苗は未知の世界に驚き、興味津津だった。

天井の装飾が豪華。畳はきれい。
お城ってこんなところなんだ。
藩邸もきれいだったけど、こっちはもっとすごい!


早苗の様子を助三郎は笑みを浮かべて見ていた。

「格之進、珍しいか?」

「あぁ、城に入ったこと無いから。」

「まぁ。おもしろいとこじゃないぞ。権力と陰謀がそこらじゅうに渦巻いてる。」

「そうなんだ。そうは見えないなぁ。」

「あれが最たる欲の塊かもしれんな。」

「え?」

中庭を挟んだ向こうの部屋から女中たちがのぞいてこそこそ話していた。

「ほら、城って表は男ばかりだが奥は女ばかりで男は殿さまだけだろ?ああいう男日照りの女中が多いんだ。」

もしかしたら、由紀もその部類の女の子なのかな?
まだ抜けてないから、やたらに裸見たがるのかも。

「なんかやだな。…って手を振るな!」

気付けば助三郎が笑顔で手を振っていた。
あちら側ではキャーっという黄色い声がこだましていた。

「どうだ?おもしろいだろ。どんなやつでも叫んでもらえる。」

「…浮気野郎が。ねぇ、八嶋殿、こいつふざけてます。」

「佐々木殿、そんなことしてたらいけませんよ。」

やっぱり与兵衛さまの方が大人だ。
叱ってもらわないと

「そんなんじゃ、甘っちょろいですよ。こうしないと。」

結局、与兵衛も同類だった。
ドキッとするしぐさとともに女に視線を送ったとたん、
向こう側の女の何人かが倒れた。

「与兵衛、また腕を上げたな。憎いやつだ!」

若君まで喜んで見てる…。

「すごいなぁ。後で教えてくださいね。」

そんなこと聞いて何になるの?

「良いですよ。コツがいくつかあるんですよ。」

教えないでください、与兵衛さま。由紀に言いますよ。

「…御老公、この人たちやる気あるんですか?」

「ハッハッハ。まぁ、ワシも若ければ一人や二人楽に落とせるぞ。」

…もう、イヤ。


そんなお馬鹿なことをしながら奥に通されると、悪の頭が待っていた。

「御老公様におかれましてははるばる紀州までご足労いただき、まことに…」

「長い挨拶はよろしい。ワシは上様に頼まれてここに来たのじゃが、この藩で何が起こっておるのか教えてくれんかの?」

「はぁ。上様は何か勘違いなされておられるのでは?わが藩はすべて良好ございます。
何も問題はありません。」

「そうか。なら良いがのう。」

「御老公様、お口に合うかわかりませんが膳を用意いたしました。若君もどうぞご一緒に。」

これだ、毒入りに違いない。
どうやってやり過ごすのかな?

「では、いただくとしよう。」

え?食べちゃいけないってご自分で言ってたのに。
大丈夫なの?

その時、天井からネズミが落ちて、膳の近くに寄ってきた。
すかさずそのネズミは膳の中にあった食べ物を口にくわえて逃げ去ろうとした。
しかし、とたんに動きを止めたかと思うとその場でもがき始め、
しばらくするとぱたりと動かなくなった。

ふと天井を見ると、弥七がのぞいていた。
どうやら彼が仕込んだようだ。

「これはどういうことかな?ネズミが膳のものを食べたら死んだぞ。」

「やや。お毒見をしましたのに。早速怠ったものと毒を入れた者を切腹に処しますゆえ。どうぞご気分を害されますな。」

「…切腹とな?」

「はい。当然でございましょう。」

「そうじゃな。ではお前さん。早く死に装束に着替えなさい。」

「は?なんの御冗談を…」

「家老、お前が毒を仕込んだのはもはや明確!堪忍しろ!」

「何を血迷ったことを。若君はどこかおかしい。誰か、医者に連れていけ。」

「往生際が悪いぞ!潔く認めるのじゃ。」

「フフ…ハハハハハ。ばれてしまったら致し方ない。
…ここでお二人とも消えてもらいましょう。」

いつの間にか武装した侍たちが取り囲んでいた。

「このジジイと小僧は畏れ多くも水戸の御老公と若君の名を騙る不届き者じゃ!斬って捨てよ!」

思ったとおり、化けの皮が剥がれた。
この場でどうしても二人を殺す気だ。

「助三郎、格之進!懲らしめてやりなさい!与兵衛、若君を安全な場所に!」

「は!」


思ったとおり乱闘になった。
最初は刀を恐れていた早苗だったが、普段通り素手で相手を倒しても何ら問題はなかった。

「格さん、怖くない?」
とお銀に聞かれたときも。

「平気だ。普段と一緒だ!」
っと倒しながら答えを返せたほど。

助三郎は着なれた袴姿で闘うことができたうえ、太刀を使えたのでいつも以上に強かった。
向かってくる腕に覚えのある紀州藩士をバタバタと倒し、騒動を静めて行った。

さすが御三家に仕える侍だけある。強いのが大勢いた。
しかし、なんども実戦を経験している早苗と助三郎には到底かなわなかった。

「もうよかろう。その辺にしておきなさい。」と光圀から止めが入った。

「格之進、印籠はあるかの?」

「はい、ここに。見せますか?」

「信じておらんかったからの。一応やっておきなさい。」

「はい。…静まれ!この紋所が目に入らぬか!」

その場に居合わせた者がざわついた。

「こちらにおわすお方をどなたと心得る。畏れ多くも先の副将軍、水戸光圀公にあらせられるぞ!」

「一同、ご老公の御前である。頭が高い!控えおろう!」

同じ親戚で同じような家紋を持っている紀州家でも効果があった。
観念したように家老もひざまずいた。


「その方、藩主の息子を手にかけようとするなど言語道断!
本来なら、頼職殿の貢献をすべき重職である。そのような悪しき者が家老などやっておってはいかん。切腹申しつける!」

重い刑を言い渡した。

これで若君の命は安全だ。
作品名:雪割草 作家名:喜世