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雪割草

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〈37〉馴れ初め



助三郎に早苗は粥を朝ごはんに作って持っていった。

「食べられるか?」

「ありがとう。わざわざ作ってくれて。
早く普通の飯食えるようにしないとな。」


「…看病すまんな。」

「いや、かまわない。」


食べ終わった助三郎はおもむろに口を開いた。

「…夢、見たんだ。」

「どんな?」

「闇の中で早苗を探してた。そしたら、手を握ってくれた…。」

「そうか…良かったな。」


しばらく沈黙が続いた。
今なら聞ける。
聞いてみたい。何でわたしを夢で探してたのか…。

「助さん、聞いてもいいか?早苗さんとは…その…なんだ?あの…」

「さては、馴れ初め聞きたいのか?」

「そこまでは…」

「ハハハ。女が苦手な格さんには不思議でしょうがないか?」

「…そうでもないが。」



「俺の話からになるが。いいか?」

「あぁ。構わん。」

でも、何の話だろ?
わたしの知らないこと?

「…俺の父上は早くに亡くなった。十の時だったかなぁ。いきなりで驚いた。」

「病気か?」

亡くなったのは覚えてる。
生まれて初めて行ったお葬式…
助三郎さまずっと泣いていた。

「死因は母上が決して教えてくれないが、たぶんそうだろう。…俺も早死にするのかな?」

絶対にそんなことさせない。
長生きして一緒に生きる。

「ちゃんと摂生に気をつければ大丈夫だ。」

「…そうだよな。すまん、話が逸れた。
葬儀の後喪が明けたら元服させられて、直ぐに出仕だった。
家名断絶だけはどうしてもだめだとうるさく親戚中に言われてな。
本当いうとまだ遊びたかった。だからな、正直、精神的にキツかった。」

「大変だな…。」

「仕事が終わったあと帰ってから学問と武術の稽古だ。毎日体力的にも辛かった。
なんでこんなに早く死んだんだって、父上を恨んだなぁ。
回りに当たったこともある。」

「そうか…。」

「早苗にもずいぶんキツかった。」

「なんで?」

「心配して来てくれたのはいいが、恥ずかしい時期ってあるだろ女の子と一緒にいるのが。
まぁ、格さんは今もか?
帰れ!とか来るな!って怒鳴って追い出したこともあった…。」

「ふぅん。」

確かに怒鳴られた記憶がある。
何度も追い返され、無視されたけど心配で通っていた。

「でもな、結局彼女が救いになった。」

「え?」

「一度、本当に我慢出来なくなって泣いていたんだ…。
仕事で失敗して上司に怒られて。先輩に生意気だっていじめられて…。
死んでやろうとまで思ったなぁ。
今思うと本当、些細なことだったんだがな。
川原で人に見られないように泣いてたら、早苗が来たんだ。」

確かその時、家に会いに行ったら帰ってないと言われ、探しに行った。
泣いてたのを見つけて慰めた記憶はある。

「それで?」

「馬鹿だったから、追い返した。あっち行けって。
でも、あいつは帰らずに近寄ってきた。
泣いてる俺のこと笑わずにずっと側にいて、俺の愚痴を聞いてくれた。
それで、言ってくれたんだ。」

「なんて?」

そこは、あんまり覚えてない。

「…辛くなったら泣けばいい。泣いて泣いて強くなればいいって。
変なやつやイヤなやつは笑って無視しろ、相手にするな。
強くなって、格好良くなって、いつか見返してやれ。
それでもイヤなやつがまだいたら、守ってあげるって。」

「守る?」

そんなこと言ったっけ?

「弱い女で何ができるのかってその時は思ったが、体力的なものじゃなかった。
…心だったんだ。」

「どういう意味だ?」

「あいつの笑顔に癒された。早苗が傍に居てくれるだけで安心できた。
疲れて重くなった俺の心が軽くなった。」

「…で、婚約か?」

「話が早いな。そうだ。その時から早苗って決めてた。
あいつの気持ちも考えないでだ、馬鹿だよな。ほかに好きなやついたに決まってるのに。」

「…そうなのか?」

「縁談や見合い話が山と来てたんだ。恋文渡してる男も見たことがある。」

そんなことない。
ずっと前から助三郎さましか見えてなかった。

「だからな、あいつが俺のことどうでもよかったら、あきらめる。
無理して引き止めて縛り付けることは絶対にしたくない。
あいつが不幸になるだけだ。あいつが自分の相手を決めればいい。
俺じゃなかったら潔く諦める。」

諦める必要はない。
見合い、縁談は全部適当にあしらった。恋文は丁重にお断りした。
わたしはあなたが一番好き。あなたじゃないとイヤ。

ここまで格之進として聞き出してしまった。
正体を偽り、騙して聞き出した。
やっぱり、言わないと…。
わたしは、格之進は早苗だって。

「助さん、あのな、実は、俺は…。」

続きの言葉が口から出てこない。
だめだ…怖い…

でも…
あぁ。やっぱりダメだ。言えないや…。

見上げて目に入ってきた助三郎の笑顔、格之進は格之進以外の何者でもないと信じきった笑顔に負けた。

「…ごめん、なんでもない。」

「なんでそんな時化た顔してる?元気だせ!」

「うん…。」


「話が白けたな。悪いな、何の収穫もないつまらん話聞かせて。
ところで、景気付けに、今夜一杯どうだ?」

はぁ?

「ダメだ!まだ本調子じゃないから酒なんかいかん。おとなしく寝てるんだ!」

「よし。元の格さんに戻った。そうでなくっちゃ!」

はめられた…
なんか悔しい。

「あ。赤くなった。面白いなぁ。ハハハ。」

「…茶碗洗ってくる。」

「終わったら、囲碁しよう!それならいいだろ?」

「あぁ。わかったから。待ってろ。」







助三郎はじきによくなった。
ほっとしたせいか、看病疲れか、早苗は少し疲れてきた。

そんな時、助三郎が手に湯呑を持ってやってきた。

「飲め。」

「なんだ?」

「良いから。俺も飲んだ。大丈夫だ。」

「うぇ、変な味で気持ち悪い。…でなんだこれ?」

「疲れてんだろ?スッポンの血だ。ご隠居がさばいて採ったんだ。
後でその肉つまみに男だけで飲み会だ。忘れるなよ!」

何なの?男だけの飲み会って…
マズイもの飲まされ、よくわからない会のお誘いで早苗はイライラし始めた。

「由紀、スッポンの血ってなんだ?飲んでも平気なものなのか?…で、なんで笑ってる?」

さっきから隣でくすくす笑いをこらえている。

「知らないの?本当に知らないの?フフフフ…」

「知らないよ。もう、いい…教えてくれないならご隠居に聞く。」

「女の子が、そんなこと聞くの、恥ずかしいわよ!やめなさい!きゃははは!」

大笑いし始めた由紀を一人残し気分転換に散歩に出かけた。



晩、本当に男だけの飲み会にひっぱり出された。
わたし男じゃないのに…。

「格さん、効いたか?」

「何が?」

「スッポンの血だよ。」

「ご隠居、何なんですか?毒じゃ無いですよね?」

「お前さん、知らないのか?」

ものすごく驚いた顔をされた。
何なの?

「夜寝られなくなるかもな。頑張れよ!ハハハハ!」

「は?なにが?何を頑張るんだ?」

「…心配するな、格さん、疲れがとれるだけじゃ。助さん!格さんをからかうでない!
…嫁入り前なのに。かわいそうに。」
作品名:雪割草 作家名:喜世