二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

雪割草

INDEX|26ページ/206ページ|

次のページ前のページ
 

〈11〉世直し?



 次の日の朝、寺子屋には昨日と変わらない三人の姿が有った。

「おはようございます。また来ましたよ」

「おはようございます。今日もよろしくお願いします」

 光圀と辰二がにこやかに挨拶をする裏で、御供二人はぼやいた。

「…格さん、今日の出立は無理かな?」

「…どうだろ? ダメかもな」

 二日も止まる事に二人は若干の焦りを覚えていた。

「教えるのは良いが、さすがに、なぁ?」

「あぁ…。だけど、御隠居は何かが気になるから、来たんだよな?」

 光圀はそういう理由でその日も寺子屋に来ていた。
不満な助三郎は大変失礼な事を口にした。

「…おせっかいもいいとこだ」

「…しっ!ご隠居に聞こえたら失礼だ」

 早苗が窘めたが、助三郎は素知らぬ顔。
この二人のこそこそ話を聞いてか聞かずか、光圀は辰二と話し込んでいた。

「昨日の浜屋さん、縁談を持ってきました」

「縁談ですか?」

 昨日の男は、やはり胡散臭い男だったようだ。

「…昵懇にされている三嶋屋の娘さんを私にと」

「受けるのですか?」

「え? それは、その…」

 突然、言葉を濁した辰二に光圀は気付いた。

「…辰二さん、想われる方がいらっしゃるのでは?」

「え? えっと、その…」

 更に言葉に詰まる彼を見て光圀は感付いた。
彼には、想う人が居ると。

 そこにお光がやってきた。

「おはようございます。皆さんまた来てくれたのですか?」

 笑顔で挨拶する彼女に、早苗の隣の助三郎の機嫌が直った。
こそっと早苗に言った。

「…まあ、ご隠居のわがままでもおせっかいでも、お光さんと子どもたちに会えるからいいか? な?」

 早苗はムッとして彼の言葉を無視した。

「あれ? なに怒ってる?」

 早苗はその日、勉強を教える間、助三郎とまともに話さなかった。

 子どもたちに勉強を教えている片手間、早苗はふっとお光を見た。
彼女は、光圀と親しげに話す辰二を見ていた。
 また、辰二も子どもたちの様子を気に掛けながらも、お光に視線を送り御、彼女を気にかけているようだった。
 その光景に彼女は気付いた。
辰二の想う相手は、お光。
 

 昼ごろ、早苗はお光を探した。
彼女に対する小さな嫉妬、許婚に対する焼き餅はどこへやら。
 『恋する女』の仲間意識を感じた早苗は彼女に声を掛け、人目につかない所で切り出した。

「…お光さん、辰二さんがお好きですか?」

「…えっ?」

 お光は早苗の突然の発言に驚きポカンとしていた。
単刀直入に聞きすぎたと、早苗は焦った。

「…えっと、その、とても優しい顔してるから、そうかなって」

 そう言ってみたが、お光からは悲しげな答えが返って来た。

「好きです。でもわたしがいたら迷惑になる…」

「…どうして?」

「…聞いてしまったんです。縁談の話。…縁談を受ければお金が入る。そのお金で寺子屋を建て直せる。だから…」

 理不尽すぎる話に早苗は怒りと疑問を覚えた。
なぜ、金の為に身を引かねばならないのか。
 互いの気持ちを確かめあってもいないうちに、なぜ諦める必要があるのか。

「…そんなことでお光さんは悔いが残らないんですか?」

 明らかに、向こうはお光に気が有る。
それを感じた早苗は、彼女に問うた。

「…いいんです、わたしのことは。辰二さんの気持ちもはっきりわかりませんし…」

 早苗は掛ける言葉を失った。
彼女自身、許婚の心がわからない。
 彼は本当に『早苗』が好きなのか。なぜ、結婚を申し込んだのか。
隣に居るだけで、確認のしようが無い。
 日に日に不安は募る。
自分の不甲斐無さを認識し、早苗は黙ったまま、俯くお光を眺めていた。
 しかし、お光の行動は早かった。

「…とにかく、浜屋に圧力かけられているので、出ていきます」
 
 酷く寂しそうな顔で遠くを眺めてそう呟いた。
早苗の耳にはっきりと『圧力』という言葉が聞こえた。

「…お光さん?」

「あっ。いえ、なんでもありません。では」
 
 彼女は足早に早苗の前から姿を消した。




 早苗は早速、お光に聞いた話を光圀に伝えた。

「…どうやら三嶋屋と浜屋が、何かよくないことを考えているような気がするのですが」
 
 早苗がそう意見を述べると、光圀も賛同した。

「そうじゃな。娘をくれるというのも。援助をするというのも妙だと思った」

「はい。そうですね」

 助三郎も同様だった。

「では、調べてくれるか? 助さん?」

 光圀は手馴れた様子で彼に命じた。
すると彼は素早く立ちあがり、部屋を後にした。

 普段見たことない真面目な彼の姿に早苗は見惚れるだけだった。

「…驚いたか?」

 助三郎の気配が消えると、光圀は早苗に向いた。

「…はい」

「あれは、真剣にやれば人の倍仕事ができる。いつもあれでやってほしいもんじゃ」

「…普段は?」

「遅刻、居眠りの常習犯。今日は格さんの手前ビシッとしておったが、いつまで続くか…」

 光圀は深く溜息をついた。

「…やはり、あれと近い歳の者を入れるべきじゃ。絶対にそうしよう」

 しばらく考え事をした後、光圀は早苗に簡単な仕事を命じた。
 
「…おそらく助さんは店へ情報収集に行った。お前さんはお光さんを守りなさい。できるな?」

「はい」

 仕事を割り振ってくれた主に感謝し、彼女は初めての『仕事』に思いを馳せた。
やる気は十分。

 しかし、光圀はやはり心配だったようだ。

「無理だけはするな。弥七を念のためにつける」

「はい」



 早苗が光圀の前を去ってしばらくすると助三郎が戻ってきた。
彼は有力な情報を入手していた。

「…どうやら三嶋屋は土地が欲しいみたいです。娘をだしに寺子屋の権利を奪い、その土地に店を作るつもりで、その裏工作に浜屋が加担しているそうです」

「…となると援助は嘘か?」

「そのようです。それと、三嶋屋の娘ですが既に言い交わした男がいるそうで…。
親に無理やり縁談を進められていると」

「酷いの…。他には何かあったか?」

「特にはありません。…あの、格さんは?」

「お光さんにつけた。弥七も一緒にな」




 その頃、早苗はお光の家の近くに張り込んでいた。
そこへヤクザ者が数人連れだってやってきた。

「お光さんよ、出ていかないのかい? あんたがここにいていい権利はないぜ」

「大家さんにはまだいいって言われてます!」

 お光は負けじと声を張った。
しかし、彼女の立場は弱かった。

「残念だな、今すぐ出てってくれってさ。ほらな」
 
 男は大家に無理やり書かせたと見える証書を見せつけた。

「…そんな」

 証拠を持ちだされたうえ、眼の前には強面の男達。
お光が一人で立ち向うなど、到底無理な事。

「わかったら早く出ていくんだな」

「ちょっと待ってください! 支度がまだ…」

「うるさいんだよ! 早く出て行くんだ!」

「離してください! 暴力はあんまりです!」

 男たちは嫌がるお光を無理やり連れて行こうとした。
それを隠れて見ていた早苗は、飛び出した。

「やめろ!」

 怖さで身体が震えたが、お光を守るため彼女は必死だった。
作品名:雪割草 作家名:喜世