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雪割草

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〈10〉西へ



 光圀は正体を隠した早苗と助三郎の様子が気になっていた。
水戸から出て数日、然したる事はなかったが一応様子を伺うことにした。

「助三郎、格之進とは上手く行っておるかな?」

「はい。私と違って真面目一本ですが、いいやつです。それに何故か知り合ったばかりな気がしません」

「…と言うと?」

 もしや何かに感づいたかと不安に駆られたが、心配はいらなかった。

「気構えが全く要りません。安心して話せます。やっぱり同い年だからでしょうかね?」

 同じ職場に同年代が居ない彼にとって、『格之進』の出現は嬉しかった様だ。
生き生きとしている彼に、光圀は念のため探りを入れた。

「…気になることはないかな?」

「は? 特には…。まぁ、強いて言うなら色恋話を極端に嫌がるようですが…」

 スケベな話を好き好んで話す女などいない。
あたりまえのことだった。

「…しかたあるまいな」

「あの、何か特別な理由でも?」

 全く理由を知らない助三郎。
光圀に興味ありげに聞いた。

「いや、慣れてないだけじゃ、おなごにな」

「そうですか…」

 助三郎は何かを考え、それを光圀に提案した。

「どうです? 格さんのためにも一度綺麗所でも呼んでパーっと!」

「それはいい考えじゃ。芸妓をたくさん呼んでな…」

 好色な話になりかけたが、光圀は我に返った。

「おっと、いかん。格さんをあまりからかってはいかんぞ。真面目な『男』じゃからな」

 女とは口が裂けても言えない。
部下となった早苗との約束を守るためだった。

「心配ご無用です」

 助三郎は真面目に返事した。
彼は格之進が男だと信じ切っていた。





 一行は紀州への旅路についた。
武士の格好をやめ、町人の旅姿。
 それは由紀も同じだった。
彼女は御殿女中ではなく、若い町娘になっていた。
 眼の保養になる彼女の姿に光圀は顔を綻ばせた。

「由紀。長旅になるが、しっかり着いて来なさい」

「はい」

 助三郎はそっと由紀に近づき、尋ねた。

「…あの、由紀殿。お呼びするとき、『由紀さん』でいいですか?」

「はい、『助さん』」

 
 少し行くと、助三郎は光圀と何やら相談し始めた。
早苗は許嫁の眼を盗み、由紀に寄って行った。

「…俺も『由紀さん』だからな」

 『由紀』と呼び捨てにはできない。
他人行儀で居心地が悪かったが、それは仕方のないこと。
 由紀もそれをわかっていた。

「…聞かれないところは由紀って呼んでね。早苗」

「…あぁ」

 コソコソ話は傍から見ると男女の密会。
それ故、二人はすぐに離れた。
 少し距離を保ちながら歩き、会話を楽しんだ。

「…助さんからの文は読んだ?」

「…読んだ」

 由紀は興味津津で早苗に窺った。

「…ねぇ、恋文だった?」

「…違った」

 早苗もその事実にガッカリしていた。
甘さも、幻想も感じられない文面に、彼女は悲しささえ感じていた。

「…なんだ、つまらないわね」

 由紀は興味を失うと、お銀の傍へ去っていった。

「俺だってつまらないよ…」



「今日は戸塚まで歩くぞ」

 いつしか早苗の隣出歩いていた助三郎がそう告げた。
どうやら助三郎と道のりについて相談していたようだ。
 その晩は、予定通り戸塚に着くと宿をとった。
助三郎が光圀と共に風呂へ入っている間、庭先で早苗と由紀は話していた。

「…え? ご隠居さまたちと寝るの?」

 由紀は驚きを見せた。

「…仕方ないだろ? 旅は仕事で、俺は男ということになっている。」

「…でも、祝言前よ。大丈夫なの?」

 尚も不安がる由紀に早苗は疑問を感じた。

「…なんでそんなに怯えたような顔するんだ?」

「だって、男の人と寝るのよ」

「水戸出てからずっとそうだぞ」

 早苗がそんなことは当たり前と言った口調で言うと、由紀は手を口に当てて再び驚いた。

「うそ…」

 そこへお銀がやって来た。

「二人とも、あまり長話は駄目よ」

 彼女に由紀は駆け寄り、親友を助けようと試みた。

「お銀さん。早苗はどうしても男部屋で寝ないとダメなんですか? どうにかならないんですか?」

「そうねぇ…。でも、由紀さんだって『格さん』と寝たい?」

「それは…。ちょっと…」

 由紀も結婚前。
決まった相手が居る彼女も、男と寝所を共にすることは避けたかった。

「大丈夫よ。何かあったら、男どもは針山にするから」

 お銀はにこっと笑顔で恐ろしい事を口にした。
背筋に冷たい物が走った由紀だったが、少し安堵した。

「早苗さん、男どもと一緒でも大丈夫よね?」

「あぁ。…もう、寝ている間に戻ったりはしないと思うし」

 早苗は一度、寝ている間に元の姿に戻ってしまっていた事があった。
助三郎は熟睡していた上に、光圀を挟んで川の字で布団が敷いてあった。
 それ故、正体の発覚は免れた。

「…大変ね。寝ている時も仕事だなんて。ずっと男でいろだなんて」

 由紀は親友を憐れんだ。
しかし、本人は悲観などしてはいなかった。

「いいんだ。それで、助三郎の傍に居られるなら…」

 女の早苗もどう思われているかわからない。
格之進の姿で居ればなおさら。
 しかし、早苗は助三郎が好きだった。
彼の傍に居られるだけで幸せだった。
 

「みんなお揃いでなにしてんだ?」

 何も知らない呑気な助三郎は、浴衣姿で三人の前に現れた。
その姿を由紀は少しムッとした表情で見た。

「なんでもないですよ。さて、由紀さんお風呂行きましょ」

「そうね。行きましょ」



 早苗と助三郎だけがその場に残された。

「一番後でもいいのか?」

「…へ? あ、あぁ。やる事あるしな」

 助三郎は面白そうに聞いた。

「日誌か?」

「まぁな…」

「書き物、好きなんだな…」

 羨ましそうに言う彼に、早苗は質問した。

「助さんは、嫌いなのか?」

 助三郎は少しバツが悪そうに答えた。

「あんまり…」

 そこで会話が途切れた。
二人の間に静かな時が流れた。
 しかし、助三郎のくしゃみで破られた。

「おっと。湯冷めするから、部屋に戻るな」

 彼の姿が消えると、早苗は溜息をついた。

「はぁ…」

 好きな男とは言え、正体の露見が怖いため緊張を強いられる。
早く男の姿に慣れ、余裕を持てる事を早苗は願った。




【改ページ】
 翌日、一行は近くにあった神社に出かけた。
その帰路、通りでは子どもたちがはしゃいでいた。

「子どもは良いですね」

 助三郎は眼を細めた。
彼は子どもが好きだった。

「元気なのが何よりじゃ」

 光圀も、ほほ笑んでその光景を眺めていた。
しかし何かあったようで突然慌ただしい雰囲気に。

「先生!」

「大変だよ先生!」

「たっちゃんが足怪我した!」

 彼等は口々に騒いでいた。

 すると、若い女性が心配そうに子どもに駆け寄ってきたた。

「まぁ、大変!手当てしないと…」


「大丈夫ですか?お手伝い致しましょう。」

 いつのまにか助三郎は一行を離れ、その女性の隣にいた。
素早い動きに早苗は少し驚いた。
作品名:雪割草 作家名:喜世