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雪割草

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〈49〉祇園の妹、島原の兄



朝、早苗は助三郎と二人で芸妓の美雪の所へ向かった。

「おはようございます。」

「あっ。格さん。それと…。」

「助です。」

「助さん。よろしゅう。」

早苗と同じ声で、目の前で名を呼ばれた。
早苗だったら、『助三郎さま』って呼んでくれるのに…。
やっぱり違う。


「それで、格さん。今日は何の御用どす?」

「はい。美雪さんにお話を聞きたいと思いまして。」

「茜でよろしおす。何を知りたいんどすか?」

なぜか女なのに嫌がらず普通に話している格之進の姿に驚いた。
なんでだ?早苗が親戚だからか?


「貴女の、仇について…。」

「…。申し訳ありませんけど、言えません。」

「そこを、なんとか…。」

格さんは、女相手はやっぱりダメだな。
普通に聞いたら言うわけがないだろ。

…茜さんは早苗じゃない。
早苗じゃないならどんなクサイ言葉でも使える。
その辺の女の子と一緒だ。

「格さん。変われ。」

「なんだ?…わかったよ。」

仕方なく早苗は横により、助三郎の仕事の様子を見ていた。


「茜さん。お時間ありますか?」

「へぇ、今日はお座敷おやすみやから。」

「やった。もしよろしければ、二人でそのあたりでお茶でもしながら…。痛い!耳を引っ張るな!」

傍で聞いていた早苗が我慢しきれず、手を出した。

「二人はダメだ!」

「わかったよ。お前も一緒だ。でも、女みたいな事するなよ…。あぁ、痛い。」

「…知るか!お前が悪いんだ!」

「何でだよ?理由言えよ。」

「イヤだ。そんなこと言えない。」

「なんだそれ?意味が分からん。…お前、やる気か?え?」

「あぁ。良いとも。受けてたつぞ!」

「助さん、格さん!お二人さんともお相手できます。行きましょ。」

「はい!」

「お茶にお菓子付けて下さいね。助さん。」

「…さすが芸子だな、図太い。」

「なんどすか?助さん。」

「いいえ!さあ、早く行きましょう。ね。」

「格さん、行くぞ。」

「…あぁ。」

助三郎は、昨晩から様子がどうもおかしい友達が気になった。
やたらと怒っている気がする。
しかも、怒ってばかりでもなく、表情が暗くなる。

「なぁ、何が不満か知らんが、そんな顔しないでくれ。」

「……。」

「なぁ。」

「見ないどけば良いだろ?俺なんか…。」

「え?」

「…気にするな。茜さん待ってるぞ。行ってやれ。」

「…ちゃんとついてこいよ。」



茜は助三郎の思ったとおりなかなか図太かった。
高そうな茶屋で、高い甘いものを奢るはめになった。

「…格さん。藩から出ないか?」

「無理だ。お前が言い出したんだ。びた一文出さない。俺は水でいいからな!安上がりでいいだろ?」

「イヤミか、それは?」

「それより、早く聞けよ。お前の責任だからな。」

助三郎は気を取り直して、聞きだしに取り掛かった。



「茜さん。御兄弟は?」

「へぇ。兄が一人。」」

「そうですか、格さんも兄貴いたよな?」

「…。」

こいつまだ機嫌が悪い。
無視を決め込むつもりか?

「へぇ、そうどすか。助さんは?」

「妹がいます。でもね、貴女みたいに綺麗でなくってね。男勝りで困るんですよ。」

「でも、助さん妹はんお好きどっしゃろ?」

「そう見えますか?」

「へぇ、うれしそうにしゃべりはったから。うらやましいわ。お兄ちゃんと一緒に過ごせるの。」

来た。つかみどころがやってきた。

「茜さん、お兄さんとは?」

「実は、名前だけで、顔は覚えてません。どうやら京にいるのは最近わかったんやけど…。」

「では、探すのお手伝いしましょうか?」

「でも、人さまにご迷惑をかけるんは…。」

ここで、うまくいわないと元も子もない。

「いいえ、茜さんの為なら何でも引き受けますよ。」

飛びきりの笑顔で、言ってみた。男慣れしている芸妓にもどうやら効いたみたいだ。

「探していただけるのはありがたいけど…。難しいと思います。」

「理由は?よろしければ。秘密は必ず守ります。」

少し考えた後、茜は話し始めた。

「うちの父親の話からになりますが、父は西国の役人どした。しかし、わたしが五つの頃、お友達やと思ってた男はんに裏切られ、騙され、その座を追われたそうで。」

「その時、お父様は?」

「はい。無実の罪で切腹させられました。藩を追われたので、わたしは母と京まで逃げて来ました。兄も一緒に思たそうですが、後々の仇討を恐れたその男に殺されそうになったので家来の者が連れて逃げました。…それきりです。ですから仇は兄が生きていることを知ったら必ず殺します。それが怖い…。」

「では、注意して探さないといけませんね。一応お名前を教えて頂けますか?」

「へえ、矢上誠太郎といいます。そやけど、偽名で動いている可能性もあります。」

「わかりました。ありがとうござます。」

兄については聞き出せた。
残るは仇が誰なのか。

「それにしても、茜さんは御苦労されてるんですね。ちょっといいですか?」

「へぇ。」

隣でずっと黙って水を飲んでいた早苗に助三郎は金の無心をした。

「…格さん、金貸してくれ。」

「はぁ?何に使う?」

「…甘いものがなくなった。今から大事な事聞くんだ。もうひとつ何か頼まないと。」

「…金無いのか?そういえば昨日何か買ってたろ。余計な物買ったせいじゃないのか?」

「…しかたないだろ。頼む。貸してくれ。」

「…わかったよ。お前の腕は認める。しっかり仕事したんだ。今までのも藩に請求しておく。」

「…ありがとう!さすが格さん。」

「あぁ…。」


「茜さん。何かもっと食べますか?」

「いいんどすか?じゃあ、葛きり!」

「はいはい!」


そこからも助三郎の聞き取りで、名前はどうしても聞き出せなかったが、客として贔屓でよく茜を指名するという有力な情報を聞き出すことができた。


「では、茜さん。何か兄上のことでわかったら知らせますね。」

「おおきに。いろいろありがとさんどした。またお座敷に来ておくれやす。」

「…あんなにおごらせておいて、また座敷に来いって?図太いな…。」

葛きりを一杯どころか五杯くらい食べた。
早苗の持ち合わせの金もギリギリになるくらいの痛い出費だった。




宿へ光圀に報告に戻る道すがら、助三郎は茜について考えていた。

やっとわかった。
なんで早苗そっくりなのに、早苗じゃないのか。
何がそうさせているのか。

目だ。
目の奥にある物が全く違う。
早苗は優しい、あったかい物がいっぱい詰まっている。
茜さんは、復讐と悲しみが奥でくすぶっている。

やっぱり早苗はこの世に一人だけだ…。


「お二人さん。ちょっといい?」

気付くとお銀がいた。

「なんだ?」

「茜さんの兄上見つかったわ。今すぐ行きましょ。」

「お銀、名前はなんだった?矢上誠太郎じゃないよな?」

「えぇ。的場清太郎だったわ。」

「で、どこにいた?」

「島原の近くの飯屋にさっきいたわ。」


言われた所に三人で行ってみた。

「あれよ。」

浪人姿の男が店から出て来た。
妹の祇園の芸妓とは程遠いみすぼらしい格好だった。
作品名:雪割草 作家名:喜世