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雪割草

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〈48〉すれ違い



朝早く、調べに出ていたお銀が戻った。

「ご隠居、美雪さんの置き屋がわかりました。
それと、弥七さんが調べたことですが、兄弟がいるそうです。」

「それは?」

「浪人です。島原で用心棒として働いているということで。」

「やはり何かあると思ったが。兄は元武士か。話を聞きたいの…。彼女に会えるか?」

「仕事がない昼の間なら問題ないでしょう。どうされますか?」

「頼む。」




早苗が帳簿をつけてる傍で、助三郎と新助は雑談をしていた。

「助さんのお相手って、あんなに綺麗な方なんですね?」

お世辞だろうけど綺麗って言ってくれた。ちょっとうれしい。

「あんなにって、お前どんなの想像してたんだ…。」

じろりと助三郎に睨まれて新助がびびった。

「いや、その…。お武家の女の人って由紀さんしか身近に見たことないから。あんなのかなって…。」

あんなのって、由紀がかわいそう…。
これ以上へんなこと言ったら由紀に告げ口しよう。

「…由紀さんと一緒にするな。あの人は賢いし、きれいだが、かなり変わってるだろ?」

ほめてるの?それともけなしてるの?

「確かに…。おいら紀州でお風呂を覗かれましたもん。」

「え?お前もか?俺も覗かれたぞ。」

あの子、男の人のお風呂みんな覗いてたんだ…。ありえない。
良くもまぁそんな恥ずかしいことを…。

「格さんは?」

いきなり話を振られて、書いていた帳簿にシミを作ってしまった。
せっかく書いたのに、パァになってしまった。

「俺は、別に…。それより変な話を振るな!書き損じただろ。」

また書きなおさないと…。
覚えてないから算盤からやり直しか…。

「お前、見られるの極端に嫌がるもんな。」

なに言ってるの?
女なんだから当たり前!

ムッとした早苗はじろりと男二人を睨んでやった。
そうすると、二人はこそこそ聞こえないように話し始めた。

「…へぇ、かくさん恥ずかしがりですか?」

「…かもな。でもさ、お前は平気だろ?一緒に風呂に入れるもんな。」

そうしているところへ、光圀がやってきた。

「助さん、格さん、ちょっとついてきてくれんかの。新助は留守番頼むぞ。」

「ご隠居、どこへ行かれるのです?」

「置き屋じゃ。美雪さんに会いに行く。」

「え…。」
助三郎の歩みが止まった。

「助さん、どうした?」

「いや、その…ちょっと行きたくないなって…。」

「なんで?」

「何となくな…。」

そうこうしているうちに、置き屋に来てしまった。
どうも、助三郎の落ち着きがない。

「美雪さんはいらっしゃいますか?」
と光圀が家の者に訪ねた。あらかじめお銀が話をつけておいたらしく、
難なく呼び出してくれた。

「へぇ。ちょっとお待ちを。美雪ちゃん!」

しばらくすると、本人が出てきた。

「おはようさんどす。あぁ、昨日のお客さん。」

白粉を落とし、普通の化粧をしていた茜は誰が見ても、早苗と瓜二つだった。

「早苗…。」

上ずった声で名を呼んだ助三郎に、早苗は変な感じを抱いた。
うれしいような、怖いような、不安なような混ざり合ったおかしな感じを抱いた。

「助さん?」

すでに自分の声は届いていなかった。


光圀に、話がしたいからちょっとそこまでと誘われ、連れ立って歩く彼女に助三郎の眼は釘づけになっていた。五感をすべて奪われたように、彼女しか見ていなかった。

光圀が美雪に話を聞くということになり、ついてきた二人は護衛についた。
早苗は周囲に気を配っていたが、助三郎は相変わらず、美雪ばかり見ていた。
しかし、しきりにため気をついて、どうにか目を逸らそうと努力していた。

「助さん、さっきから変だぞ。大丈夫か?」

「…なんか気分悪いから宿に戻っていいか?」

「あぁ、わかった。気をつけろよ。」


一人で、その場から抜け出した。

本当は気分なんか悪くない。
俺の何かがおかしいだけだ。
たぶん、あの美雪さんのせいだ。
見れば見るほど早苗に見えてくる。
水戸に置いてきた、小田原で助けた早苗に瓜二つだ。

でも、違う。
あれは早苗じゃない。
中身が違う。周りの空気が違う。


早苗に会いたい…

旅の目的が達成できて、気が軽くなったかな。
でも、江戸に帰り、水戸に帰るまでが仕事だ。気を抜いたらいかん。
我慢しないと。

とぼとぼよそ事を考えて歩いていたら、どうやら道を間違えたらしい。
三十三間堂が近くにあった。
戻ろうかとも思ったが、気分を落ち着かせるためにと思い直し、仏様を拝みに入ってみた。

しかし、心が落ち着くどころではなかった。

いつか、資料でここには『会いたい人の面影が一体ある』と読んだことがある。
嘘だと思ってぼーっと眺めていたら、視界に入ってきた。
早苗にどことなく似ている。
見た目が瓜二つの美雪さんよりも似ている気がした。

頭に、ほほ笑む早苗の顔が浮かんだ。
昨晩見た美雪さんが仕事で作る笑みなどとは、雲泥の差の笑顔。
俺に向けてくれる優しい笑顔。

早く国に帰りたい…。

その後、助三郎は宿に戻るため再び町をぶらぶら歩いていた。
珍しいもの、きれいなもの。京の町には女の子が好きそうな綺麗な物がいっぱいある。

ふと小間物屋が目に入った。

…あれは!
近くに寄って手に取ってみた。
早苗に似合う、絶対に似合う。
これに勝る物はない。これしかない。
直感でそう感じた。

飲み代にばかり消えていた自分の有り金を
初めてまともな、大切なものに使った。

水戸に土産として持って帰ろう。
早苗、よろこんでくれるかな?笑ってくれるかな?

さっきまでの鬱々とした考えは薄れ、少しだが気分が明るくなった。

重かった足も心なしか軽くなり、宿へ戻った。



部屋に入ったとたん、
光圀に睨まれ、隣で座っていた早苗に
「お前はどこをほっつき歩いていた!」
と怒鳴られた。

「あ…。戻ってたのか?」

「なにが、戻ってたのか?だ。とうに戻ってたよ!もう夕方だぞ!」

「え?」

恐ろしい。ぼーっとしていて腹が減ったことも、昼を食べるのも忘れていた。気づけば夕方になっていた。
とたんに腹の虫が鳴った。

腹、減った…。

「なに買ってきたんだ?それ?」

そう聞かれて、助三郎はなぜか恥ずかしくなり、懐に隠した。

「なんでもない。」

「ふぅん。まぁ、藩の金からは出さんからな。そこのところよろしく。」

「わかってる。俺の金だ。」

他の者に見られ何か言われないうちに、大切な贈り物を、荷物のそこに大事にしまった。




「それで、何を話されたんです?」
夕餉を食べ終わって一息ついたころ、助三郎は光圀に尋ねた。
昼を抜いたせいか、腹を空かせていた助三郎は、底なしの食いしん坊の新助も驚くぐらいたくさん食べた。

「わたしも聞きたいです。いいですか?ご隠居さま。」
ほとんど留守番でつまらなかった由紀も話に興味を示した。

「では、皆に話そうかの。」



「あの、早苗にそっくりの美雪さんの本当の名は、茜だそうじゃ。」

「茜さん…。」
何となく早苗に名前の雰囲気が似ている。

「そして、助さんが懐剣拾ったじゃろ?あれは親の形見らしい。」

「ということは?」
作品名:雪割草 作家名:喜世