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雪割草

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〈47〉祇園の夜



全員集合とのことで部屋に弥七以外集まった。
弥七はこういう所にほとんど来ない。

晩にはまだ早いというのに、呼ばれたことで
少々疑問を感じた。

「なんですか、皆を集めて?」

「晩ごはんまだですか?お腹減りました…。」

「新助、今晩は良い所で食べるのじゃ。ちょっとの間我慢しなさい。」

「やった!ごちそうですか?格さん、貯めてたお金でおいしいものですか?」

食べられるとわかるととっさに元気になる新助を横目に、早苗はまだ一抹の不安を感じていた。

「まぁ、ちょっとなら贅沢できるが…。ご隠居、どこへ行くのです?」

何かが怪しい、さっきまで一言も何も言わなかったのに、いきなり晩の予定を勝手にうれしそうにし切ってる。絶対何かある。飲みにでも行くのかな?でも、それなら男だけで行くはず…。

「フフフ…。京と言えばあそこであろ?男の夢じゃろ?」

「はぁ?えっと…。」
急に振られて、わけがわからない早苗は考え込んだ。
京って男の人が喜ぶもの、なにかあったっけ?
女の人はきれいな着物か小物だけど…。

隣で聞いていた助三郎はすぐに気がついた。
「わかった!祇園ですね?さすがご隠居だ。では、さっきの文は?」

「助さん、感がいいのぉ。公家の知り合いに良いお茶屋を紹介してもらった。今から皆で行くぞ。御座敷遊びじゃ!」

御座敷遊びって、芸者遊びとどう違うの?
一緒じゃないの?そんなの行きたくない。

早苗は悶々と行かずにすむ方法を考え始めた。
そうだ、女は行きたくないはず。
お銀さんと由紀と残るって言えば…。

「ご隠居、女には居心地が悪いでしょう?二人は残るのではないでしょうか?私は二人と…。」

目配せしてみたが全く意味がなかった。
二人は行く気十分だった。

「お銀さん、女も行っていいの?」

「いいんじゃない?舞妓さん見たいでしょ?」

「はい。かわいい子いっぱいいますよね?綺麗な着物の!」

「はぁ…。裏切り者…。」
仲間だと思ったのに。二人ともひどい…。


「そういうことじゃ、支度ができたら行くぞ。身なりはきちんとしていかんとな。」

「よし!風呂に入ろう、格さん、新助行くぞ。」

どさくさにまぎれて風呂に誘ってきた。

「俺はいい!入らない!」
入れるわけがない!

「汗臭かったら舞妓さんに嫌われるぞ?」
何の疑問も感じていない助三郎の表情にイラッとした。

「祇園になんか行かないから俺は入らない!」
こんな男の姿で一緒に入れるわけがない。
しかも新助さんまで一緒なんて無理!

「そう頑なになるなって。一度くらい遊ばないと男に磨きがかからないぞ。」

「俺は…!」
いけない、本当のことだけど言ったらいけない。

「なんだ?」

「…なんでもない。」

「なら、一緒に祇園行こう?イヤだったら女の人が寄らないようにしてやるから。な?」

助三郎が一緒に行こうと誘う表情にうっとなった。
なんか可哀想になった。
絶対この人、表情で心に訴えるのがうまい気がする…。
いままでに何回負けたんだろ?

「わかったよ…ついてくよ…。」

「よし!それなら、風呂入ろう!」
パッと明るくうれしそうな表情に戻ったと思った直後、
性懲りもなく風呂に誘ってきた。

「イヤだ!スケベ!俺は一人で入る!」

「は?」




お茶屋はお公家さまの紹介だけあった。
料理は高級。きれいでいい雰囲気のお座敷。
そして大勢の舞妓さん、芸妓さん。

舞を堪能して早苗の機嫌は良くなった。
嫌悪していた芸者とは違い、舞に誇りと自信を持っている京の祇園の芸舞妓は
品格がけた違いだった。
男に媚び売ってすり寄っていくのではなく、舞で勝負という気概が見てとれて早苗には心地よかった。


横で見ていた由紀も同じことを考えていたようだ。
「きれいね…。」

「あぁ…。そうだ、由紀もあんな格好してみたいか?」

「そうね、着物は羨ましいけど、わたし舞は下手だから…。」

本業だった奥方付き女中には賢くなければなれない。
教養、容姿、人格も兼ね備えていなければいけない。
そんな大変な職にこの娘は就き、今まで数年間仕事をこなしてきた。
そんな、完璧に見える由紀にも苦手なものはあるし、変な趣味?もある。
ちょっと自信が出た。
自分のイヤな面ばかり考えてたけど。わたしでも誇れるものがいくつかある。

「早苗は舞、出来たわよね?上手かったものね?」

「ちょっとだけだ。上手いとは思えんな。」

母は舞が上手で近所の女の子たちを集めて教えていた。
先輩や後輩、友達もいっぱいいた。
早苗自身、小さい時から稽古はやってはいたが、気付けば武術や学問のほうが好きになっていた。最近男のふりばっかしてるから、上手く舞えないかも…。


そんなことを考えていると、と舞を終えた一人の芸妓が近づいてきた。

「おきゃくさん、どうぞ。」と白い手で酒をすすめてきた。

やっぱり、芸妓さんでもお酌はするんだ。
ちょっと緊張する。男を見る目で見られるのが怖い。
でも、失礼になるからもらわないといけないよね。

一応、酒をついでもらった。

「…ありがとう」
と声をかけ、勇気を出して彼女の顔を見た。

その瞬間、心臓が止まるのではと思った。
手に持ったお猪口を取り落とさなかっただけ偉かった。
それくらい早苗は動揺した。



…わたし?

そうじゃない、鏡?


でも、今わたしは男の姿のはず。
現にこの、目の前にあるわたしの顔は白粉を塗り、真っ赤な紅をさしている…。
こんな濃いお化粧したことないけど。
やったらこんな顔になるに違いない。
いったい、これは…。

「いややわぁ。そないにじっと見られたら恥ずかしい…。」
その自分と同じ目は、自分のことを男を見る目では見てこなかった。
代りに、恥ずかしそうに下を向いた。

声まで、本当のわたしにそっくり…。

二重の驚きで声が出なかった。

その様子を向かいに座っていた助三郎に気づかれた。
「おい、格さん?…固まったか。芸妓さん、そいつは女の人が苦手でしてね…格さん、すごい顔してるぞ!ハハハハ!」

しかし、
「そうどすか?すんまへん。うちが注がん方がよかったやろか?」
と笑って振り向いたその芸妓の顔を見て笑いをぴたりとやめた。

「…早苗。」
おどろきのあまり手に持っていた箸を取り落とした。

二人の異変に気づき、皆も芸妓の顔を確認した。

「これは、まぁ…。」

「本当ね。すごい。」

みな揃って同じような反応を示した。
やはり、似ている。というより、瓜二つ。
しかし、しょっちゅう格之進から早苗が元の姿に戻っているのを見ている光圀、お銀、由紀にはそこまでの驚き、衝撃はなかった。本人を見たことない上に、格之進は男だと思い込んでいる新助は何の反応も示さなかった。

一番衝撃を受けたのは、長らく本人を見ていない助三郎だった。
あいた口がふさがらないというような状態だった。

客にじろじろ見られ、感嘆されたうえ、若い男二人が氷ついてしまったことに今までにない不安を感じ、芸妓は聞いた。
「なんどすか?皆さんどないされました?」

高級なお座敷で失礼なことをした、と気づいた光圀が代表で謝った。
作品名:雪割草 作家名:喜世