小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

続 帯に短し、襷に長し

INDEX|5ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

うぶぎ


 うぶぎといえば、「産着」が一般的だが、「初着」と書いても、うぶぎと読む。

 どう違うかといえば、「産着」は、白い木綿の肌触りの良い柔らかい生地で作った、赤ちゃんが、直接、肌につける着物である。主に、産湯を使うときに着たもので、産後のまだ刺激に弱い赤ちゃんのための着物なのだ。
 ふんどしやおむつなどに使う生地で、大人は着ないものだ。同じ木綿で織った浴衣であっても、もっと硬い糸で織る。
 では、「初着」は何かというと、『初めて大人と同じ生地で作った赤ちゃんの着物』なのだ。だから、刺繍が付いたり柄が染め出されていたりする。金箔をはったり金糸銀糸で縫い取りがあったりもする。お宮参りでの掛け着、祝着、あるいは熨斗目と言ったりする、父方の母、赤ちゃんのおばあさんに当たる方に抱っこされた赤ちゃんにかける着物なのだ。
 3歳になれば、この着物を子供サイズにあげを取って、今度は子供本人が着ることになる。素肌に着るものではなく、ちゃんと肌着を着て、お襦袢を着て、その上から着るのだ。
 つまり、「産着」と「初着」は、読み方は同じでも、全然、別個のものなのだ。「産」は、出産の意味。「初」は、まだ世間擦れしていない純粋さを意味している。

 昔は常識だったはずのそれも、今となっては、ちょっとしたトリビアになってしまった。
 それが証拠に、知恵袋で、こんな指摘が付いた。

「初」と「産」は、字の意味も読み方も同じなのだから、どっちでもいいのでは?

 それぞれが、違うものを指しているのに、読み方が同じで、漢字の意味も同じ重なりがあるからと言って、テレコに使っていい道理にはならない。漢字は象形文字でもあるのだから、漢字そのものの意味を取り違えるような使い方はできないはず。
 それはそれ。これはこれ。なのだ。

 ところが、残念なことではあるが、そうであるという確たる証拠は持っていない。
 昔の文献から、そのように使われてきたと提示できるものもなく、漢字について決定的な学説も持っていない。あるのは、師匠から教わったという事実のみ。
 師匠が間違っていたら、私も間違っているという、なんとも不確かな知識なのだ。
 だから、その指摘についても、そうであるとも、また、そうでないとも言い切れない。

 そんな不確かさと背中合わせが伝統にはある。

作品名:続 帯に短し、襷に長し 作家名:紅絹