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扉を開けたメール

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渾身の説得


 郊外に在るその工場では電話交換機やコンピュータの製造がおこなわれていた。新製品の開発や製品テストのための研究所も、その広大な敷地内にはあった。守衛所のある門で会社名や氏名を記入してからサッカーの練習もできる陸上競技のトラックと、だだっ広い駐車場の間の路を行く。
 営業部長の田川敦彦は相変わらず上機嫌だった。昼食は高級な和食の店で、花山が今まで食べたことのない懐石料理を、ご馳走してくれた。
「是非とも大口の契約を獲得したいね。花山君はここで三年間、どんな仕事をしていたのかな?」
「生産技術課というところにいて、製造機械の保守点検をやっていました」
「そうか。広い敷地だね。建物が幾つあるんだろう」
「開発本部を入れると七つです」
「購買の安岐課長とは親しかったんだね?」
「一緒に山を歩いた仲間でした」
「山の仲間か。あっ。ここが一号館だね。花山君は挨拶だけでいいよ」
「はい。わかってます」
 階段を上った先はガラス張りの中がロビーで、その奥に受付カウンターがある。ガラスの自動ドアを通過して大理石の上を歩いてゆく。
作品名:扉を開けたメール 作家名:マナーモード