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未来からの来訪者

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 家に帰ってくると、見慣れない少女が僕の部屋の前に立っていた。その顔にはどこか影が差していた。どこかで会ったことがあるのだろうか。その顔には見覚えがある気がする。だけど、誰なのかわからない。デジャヴみたいなモノだろうか。いや、きっとそうに違いない。僕は勝手にそう納得し、部屋に入るために彼女の横を通り過ぎていった。
「あの」
「ん? 僕?」
「はい。中田敏樹さんですよね」
「ええ。ですが、どこかでお会いしましたっけ? 僕の記憶が正しければ、今日会うのが初めてだと思いますが」
「そうですね。本来なら、まだお会いするはずはありませんから」
「それで、何が言いたいんだい? この通り、僕は仕事帰りで疲れている。さっさと部屋に入って、軽く晩酌したあとに、眠りたいんだが……」
 少し意地悪な事を言ったかもしれない。だが、疲れているのは事実だし、他に楽しみのない僕にとっては、一人でゆったりと晩酌するのが、一日の唯一の楽しみなのだ。彼女のいない僕にとって――。
「……えっと、その。ここでは他に頼る人がいないんです。もしよかったら、一晩泊めていただけませんか?」
 なんて酔狂な人なのだろうか。普通なら考えられない事である。物取り目的なのかもしれない。僕はふと、そう思った。
「僕には君を泊める理由はないと思うがね」
 そういって鍵を開け、部屋に入ろうとした。
 普通に考えるとおいしい話である。見知らぬ少女が泊めてください、というのだ。そのままいただきます、という展開に持ち込むことも容易であろう。だが、僕にはそんな気は一切起きなかった。まるで、女性を感じないのだ。なんというか、実をいうと他人のような気がしない。まるで親戚の女の子に会ったような、そんな感じがするのだ。
 彼女は知らん顔を決め込む僕の袖を引っ張った。
「お願いです、あたし、この時代のお金を持っていなくて……」
「この時代?」
「あ、いえ、お財布を落としてしまって……」
 僕の聞き間違いではなかったのだろう。僕の問いに、彼女は慌てて取り繕ったような事を言った。なんだか不思議な女の子だ。僕は次第にこの子に惹かれていった。誰であろうと関係ない。
作品名:未来からの来訪者 作家名:西陸黒船