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町内ライダー

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その2


 尾上タクミは苦学生である。
 彼が中学生だった時、高速道路で十数台の玉突き事故に巻き込まれた。彼と両親が乗る車は、丁度中間地点辺りにいて、前後の車に押しつぶされた。
 両親は即死、彼も病院に運び込まれた時には既に息がなかった。
 だが、奇跡的に蘇生した。という事になっている。
 それが蘇生などではなく、自分は本当は死んでしまったのだ、という事を、彼は今はよく弁えている。
 スマートブレインハイスクールに奨学生として入学したのは、タクミのような両親のいない学生に対して、生活費を含めての支援を行う奨学金・授業料免除制度が整っており、下手に公立高校に通うより金銭的負担が低かったからだ。
 奨学生だから勿論成績は落とせないが、学費や生活費も奨学金や援助制度、両親の僅かな遺産だけでは心許ないから、ある程度は自分で稼がなくてはいけなかった。
 故に、彼の日常は、写真部に顔を出した後はバイト漬けの毎日であった。家庭の事情を鑑み、学校からも許可が降りている。
 少し前に、土日の一日中と、月水金の夕方に新しいバイトを始めた。
 土日のバイトはクリーニング屋の店番。以前、土曜日曜に入れていたバイトは就労時間が短く、もう少し長く働けるバイトを探そうとしていたところ、朝十時から夕方六時まで募集の張り紙を見つけた。客待ちの間は暇な時間が多く、店主にはその時間を勉強に充てる事を許可してもらったし、夏の暑い最中に鍋焼うどんが突然出てきたりするのが少々解せないが、お昼ご飯付きというのも地味に嬉しい。
 月水金のバイトは喫茶店。夕方の五時から夜九時まで。最近忙しくなったので、人手が足りなくなったのだという。カメラマンのご主人を早くに亡くされた、綺麗なお母さんと小学生の娘さん、住み込みでカメラの勉強をしている青年の三人で切り盛りしている店だった。

 両方の店で、常連というのはいるのだが、ことに喫茶店の方は変わった常連客が多い。
 店の名前は、Jacarandaと書いて、ハカランダと読む。花の名前だ。オーストラリアでは春になると、このハカランダ並木が日本の桜のように満開を迎えて街を埋め、景色を薄紫に染めるのだという。
 亡くなったご主人が撮影したという、ハカランダ並木の写真が写真集で残っていたので、見せてもらった。
 オーストラリアの空の色はからっとしていて、そこに、桜よりははっきりした色のハカランダの花が、立ち並び咲き誇っていた。
 何故だかタクミは、その写真を見て、とても胸苦しく切なくなった。とてもとても綺麗だけれども、どこか幸せな記憶なんかが、知らない内に呼び起こされてしまうのかもしれない。空の色が乾いているからだ、とも思った。
 そんな名前を持っている喫茶店で、最近常連になった男が、初めて店を訪れた時の話だ。
作品名:町内ライダー 作家名:パピコ