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愛憎渦巻く世界にて

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第7章 セイイキ



「オイ!!! 何者だ!!!」
「ここはタカミ帝国の大使館なんだぞ!!!」

 ゴーリ王国首都にあるタカミ帝国大使館の敷地に止まったシャルルたちの馬車を、大使館の警備兵たちが取り囲んでいた……。警備兵たちは、銃剣がついたマスケット銃をシャルルたちに向けていた。
 大使館の敷地内は、綺麗に庭園が整備されていた。建物は、立派なレンガ積みの大きなものであった。だが、今のシャルルたちには、綺麗な庭園や立派な建物を眺めている余裕など無かった……。

「ウィリアム、どうする気だよ?」
銃剣を突きつけられているシャルルが、余裕顔のウィリアムに言った。メアリーは平然としている。
「これが目に入らぬか!!!」
ウィリアムはポケットから、タカミ帝国の紋章がついた勲章を取り出し、そう叫んだ。紋章は金色に輝いており、その輝きは、本物であることを紋章自体が主張しているようであった。しかし、
「どこでそれを拾ったんだ?」
警備兵の1人が言った……。
「……だから、私がタカミ帝国のウィリアム皇子なのだよ」
ウィリアムは諭すような口調で言った。
「殿下が行方不明になっていることは知っている。しかし、お顔を知らないからな」
「……では、どうやって、私を探すつもりでいるのだ?」
「さあな。とにかく馬車から降りてもらうぞ!」
すると、警備兵たちは、勲章を持ったままのウィリアムや、シャルルとメアリーを、馬車から乱暴に引きずり下ろし始めた。
「無礼な!!!」
ウィリアムは叫び、警備兵の手を払いのける。

「警備兵!!! 殿下から離れろ!!! 武器をおろせ!!!」

 そのとき、大使館の建物のほうから怒鳴り声がした。シャルルたちや警備兵たちは、一斉に、声がしたほうを見た。
 大使館の入口から、綺麗な身なりをした中年紳士がやってきていた。
「ああ、イーデンさん。なんとかしてください」
ウィリアムはその紳士に言った。
「その方は本物だ」
イーデンは警備兵たちに言った。
 すると、ウィリアムの近くにいた警備兵たちは、すぐにウィリアムから離れた。どうやら、ウィリアムが本物だと気づいたようだが、シャルルとメアリーは、そのままだった……。
「しかし、急に来られた殿下にも問題がありますぞ?」
イーデンという男は苦笑いしながら、ウィリアムに言った。
「緊急事態だったもので。それより、私の可愛いメイドと、後先考えない少年もなんとかしてください」
「わかりました。警備兵、全員持ち場に戻れ!」
イーデンがそう言うと、警備兵たちはやれやれといった感じで、シャルルとメアリーから離れ、各自の持ち場へと歩いていった。



 そのころ、ムチュー王国では、マリアンヌ姫がゴーリ王国に捕らわれたということがわかり、大騒ぎになっていた……。

 人々は、「我が国はもう終わりだ」とか「これからどうなるんだ」といった悲痛な叫び声を上げ、どうしてくれるんだと王城に怒鳴りこむ人もいた。王制打倒という内乱が起きる可能性が高くなり、国王は仕方がなく、マリアンヌを逃した責任がある近衛兵を、ギロチンにて公開処刑した……。
 それで、人々の怒りはいくらか鎮まったが、再燃の可能性があり、国王は重臣たちを集めて、緊急の会議を開くことにした……。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん