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愛憎渦巻く世界にて

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第25章 センカ



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ある人たちは愛し合い ある人たちは憎み合う
ある人たちは味方同士 ある人たちは敵同士

愛する人には愛情を投げかけ 憎む人には憎悪を投げつける
愛する人には救いの手をさしのべ 憎む人にはこぶしをぶつける

愛情と憎悪が渦巻くこの世界
愛情の波と憎悪の波は打ち消し合う
愛憎渦巻く世界

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


 船の先端近くに立つマリアンヌが、優しげな調子で歌っていた。彼女の周りにいるシャルルたちは、静かに耳を傾けている。彼女の歌声は、ウィリアムほどではないが美声であった。
 最後まで歌い終わると、シャルルたちや一部の船員は、彼女に拍手を送った。自分の歌声に自信が無かったらしい彼女は、大きな拍手に恥ずかしそうだった。

 シャルルたちを乗せた船『ネルソン号』は、嵐や海賊に遭遇するトラブルも無く、順調に海原を進んでいた。静かな海面に、グングン進む船から放たれた波が流れ去っていく。その消え去った波のはるか先に、出港地であるタカミ帝国のハーミーズ要塞があるのだ。

「それで、船長。ムチュー王国のどこに入港するかは決まったのか?」
ウィリアムが、操舵輪の近くにいたビクトリーに尋ねる。ビクトリーは、ポケットからくたびれた地図を取り出すと、
「『セヌマンディー』という港町に入港することにしました」
その場所を指さしながら言った。
 セヌマンディーとは、ムチュー王国の北の海側にある大きな港町だ。ムチュー王国とタカミ帝国との交易は、主にここで行われており、岬の崖にそびえ立つ大きな灯台は、観光名所として有名だ。
「久しぶりですわ」
マリアンヌが懐かしそうにしていた。かなり幼いとき、彼女はその港町を訪れていたのだ。
「地名は聞いたことがあるのだが、どんな所なんだ?」
ゲルマニアがマリアンヌに尋ねる。
「心地よい潮風が漂い、静かなさざなみの音が聞こえる港町です。海の向こうに沈む夕日に照らされる大灯台は、これ以上ないほどの美しいですわ!」
まるで観光案内のような説明をするマリアンヌであった……。とても誇らしげな様子だ。
 シャルルも地名を聞いたことがある程度だが、自国の観光地に対する誇りは持ち合わせていたので、到着を楽しみにしているようだ。
「楽しみだわ!!!」
元気よく叫んだのは、いつのまにかシャルルたちと仲良くなっているブリタニアだ……。彼女は、マリアンヌが誇らしげに語る美しい港町に、期待の心を膨らませているようだ。
「言っておくが、遊びに行くんじゃないんだぞ?」
彼女の兄であるウィリアムが諭したが、彼女の心はセヌマンディーに釘付けであった……。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん