君にこの声がとどくように
第三章 この声がとどくように
木造の家の、木造のドアが開かれた。
キャスは入ってきた男を両手を開いて歓迎した。
「クオン、来てくれたのね。うれしい。ずっと待ってたのよ」
キャスはクオンに抱きつきながら、その服を脱がす。
「クオンは強いよね? 不死身なのよね?」
無邪気な笑顔ですべての衣類を剥ぎ取ると、そこで笑みが止む。
「……だったら、これにも耐えられるよね」
王都エルセントの遥か東にある、未開拓地フロンティア。
その北部に広がる密林の奥に多数存在するの開拓民の村に売られたキャスは、開拓民相手に娼婦のようなことをさせられていた。
心が壊れたキャスは、クオンと名乗る男の言うことを何でも聞く。だが、言うことをきかせるためには、試練に合格しなければならなかった。
試練の内容は、キャスの魔術に耐えるというものだ。
『さぁさ みんなおいで いっしょに踊ろう
兎も狸も狐もみんな 本も鏡もカードの兵隊も
ホウキの乗ったお婆さん 陽気にみんなを導くよ
さぁさ みんなおいで いっしょに謡おう
さぁさ みんなおいで いっしょに踊ろう
さぁさ みんなおいで いっしょに謡おう
さぁさ みんなおいで いっしょに踊ろう』
裸にされた男たちは、この術で肉体ごと魂を喰われ、一滴の血も残すことなく消滅してしまう。
そうして残った所持品を売り捌き、財産を溜め込んでいるのはこの村の村長だ。もちろん村人も知っているし、分け前を享受しているため、キャスに手を出す男はいなかったのだ。
この村に売られて八ヶ月。
キャスは娼婦という仕事を与えられながらも、その身を汚すことなく生活を送っていた。……しかし。
術によって男が消え去ってしまった後、キャスはベッドに潜って泣く。そうして泣き疲れるまで泣くと、星空の下で謡うのだ。
それは遥かな昔に使われていた、遠い遠い異国の言葉。
その村の誰もが、その意味を理解できはしなかった。
作品名:君にこの声がとどくように 作家名:村崎右近



