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てっしゅう
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「仮面の町」 第四話

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第四話

「優子さん、実は家に余分の布団がないんだけど・・・どうしよう?それに風呂もないし・・・」
「そう・・・そうよね男の一人暮らしなんだものね。風呂はどうしているの?いつも」
「銭湯に行ってるよ、近くにあるから」
「じゃあ私もそうするしばらく銭湯に行ってないからたまにはいいかな。布団は・・・一緒でいいよ」
「一緒?」
「弘一と私は恋人同士よね?」
「うん、もちろんだよ」
「だったら・・・いいじゃん」
「はい・・・」

優子は正直に言うとまだ経験がなかった。何人かと交際はしてきたが手を繋ぐ程度でそれ以上には発展しなかった。させなかったという方が正しいかも知れない。弘一が自分を求めてきたらどうしようか迷っていた。頭の中はイエスorノーが繰り返されていた。
弘一もまた同じように優子がすべてを許してくれるのかどうか悩んでいた。もし強引に求めたらきっと嫌われて別れてしまう、そして何もしなかったら意気地無しと嫌われてしまう、どちらにしてもいい結果にならないと・・・悩んだのだ。

食事の後、家に帰って二人は銭湯に行って部屋で寛いでいた。スッピンの優子は恥ずかしそうにしていたがその仕草が今までとは違って新鮮に弘一には映っていた。余り話す事もなく時間が過ぎていった。

「優子さん、明日からどうするの?謝って家に帰るの」
「帰らないつもり・・・ねえ?二日か三日ほど泊めて、お願い」
「僕はいいですけど、ご両親が心配されますよ」
「母にはここに居ることを伝えるから。父が謝らない限り帰るつもりはないの・・・許せないから」
「僕と一緒って言うんですか?そんなことしたら・・・強制的に連れ帰されてしまいますよ」
「あなたと一緒だなんて言わないわよ。お友達って言うから心配しないで」
「解ってしまいますよ・・・訪ねてこられたら」
「来ないって、そんな人じゃないから」
「お母さんですよ!娘の事心配するに決まっているじゃないですか」
「あなたの常識はそうよね・・・みんな一緒じゃないのよ。まあ言っても始まらないけど」
「話せないような家族のことがあるのですか?」

「別にないわよ。ただ父は養子で実家は知られた豪商だったの、戦前まではね。戦後状況が変わって子供の頃に今の高木の家に養子に出されて母と結婚した。母は父から実家の事をいつも聞かされ、尊敬するように変わっていったの。身分や過去の栄光なんて自分を束縛して苦しめるだけなのに・・・離れられない人達なの」
「優子さんもそこで育ったのに尊敬しなかったんですね、お父さんの事を」

「うん、子供の頃は何も知らなかったから立派な父親だと思っていた。高校生になってからかな、父の言っている事は実家を追い出された愚痴だったって言う事をね。意見した事はなかったけど、弘一の事故の話しをしたときに関係ないから首を突っ込むなと言われて、この人はそういう考えなんだって怒れちゃって、家族より大切なのね自分の身の安全が・・・って言ってやったの。そうしたら・・・出てゆけ!って言われた」
「お父さんにしてみればお母さんや優子さんの安全を守っているという気持ちが強かったんだよ。その思いを理解しなかった優子さんの言葉にかっとなって出てゆけ!って言ってしまわれたんだと思うよ」

「それもあるでしょうけど・・・本心から話し合えない家族なの。いつも誰かの機嫌を伺っていないといけないような・・・何かにきっと見張られているようなそんな生き方をしているように感じていた。父の仕事は久能不動産の下請けなの。高木家はずっとそうやって来たから代々仕事は久能から分けてもらっていたの。そんな恩って言うのかしら、父は久能には逆らえないのよ。私のことなんかより大切なことなの、そういう義理が・・・」
「優子さん、そんな権力を振りましている久能家が未来にまで発展し続けることはないですよ。驕る平家は久しからず・・・って言うでしょう。過去にそういう事例がたくさんあります。用意周到だった徳川家だって170年もしたら、がたがたになっていましたからね」

「久能家は栄えだして100年だから・・・そろそろ屋台骨が腐り始めているかも知れないね」
「そうですよ。町の発展は旧支配体制からの脱却以外に望めないと考えます。保守的な思想は未成熟な人間ばかりの時代には必要だったのかも知れませんが、これからは国際社会だしすべての物や金の流れが透明でないと受け入れられないと思うんです」

「弘一は勉強しているのね、感心したわ。優柔不断なんて言ってごめんね」
「いいんです。男ですからちょっとは考えないと置いてゆかれますからね」
「頼もしいわ・・・初めて男の人にそう感じた。弘一なら私は後悔しない・・・」

優子はそういうと自分から寄り添ってキスを求めた。
初めての弘一は恐る恐る唇を重ねた。

温かくて柔らかい優子の唇は天使のような感触に感じられた。これ以上のことはもういいとさえ思ってしまった。
じっとそうしていただけの弘一に唇を離して、優子は布団に先に入って、待っていた。
電気を消して、強く優子への想いが欲望を駆り立てた・・・

恥ずかしさでものが言えなくなってしまった優子はずっと弘一にしがみつくようにしていた。何も知らない同士でも気持ちの高ぶりが自然に事を最後まで運ばせてくれた。注意しなかった事を気にしたが我慢出来ずに弘一は優子の中で最後を迎えた。

「優子さん・・・ごめんなさい。どうしよう?」
「いいよ、気にしないで・・・大好きな弘一さんの事だから後悔しないって言ったでしょ」
「うん、だけど・・・子供が出来たら困るよね?」
「私が奥さんになる事はイヤ?」
「そんな事ないよ。もう離したくないって思うから奥さんになって欲しい」
「なら、いいよ。弘一さんが好き・・・誰よりも大好き、だから離さないでね」
「優子さん・・・一緒だよ」
「優子って呼んで」
「ああ、優子」

二度目も中で出した弘一はもう結婚したいとさえ感じ始めていた。優子は妊娠しないであろう予感があったからそれほど深刻には受け止めていなかった。しかし弘一への強い思いがその予感を外してしまう・・・

その日家に帰ってこなかった優子のことで父親の康夫は妻を激しく叱った。いつも夫に従っているだけの態度であったがこの日は違った。

「あなたが出てゆけって仰ったから優子は帰ってこなくなったのよ。私にどんな責任があると言うの!」
そう反論した。結婚して初めて妻から反抗的な言葉を聞いた康夫は少したじろいたが、娘の教育は母親の役目だと念を押して重ねて言った。

「お前の責任だ。明日は帰ってくるように探しなさい、いいか」
「どこに行ったのか知りませんから、連絡があるまでどうしようもないです。それに、あなたが謝ってくれないと帰らないとも言って出て行きましたよ」
「バカな・・・俺は当たり前のことを言ったまでだ。謝る必要など無い!」
「だったら・・・帰って来ないかもしれませんよ。いいんですね?」
「お前の責任って言っただろう!なんとかしろ、世間に恥ずかしい事されて平気なのか?おまえは・・・」
「世間?そんな問題じゃないでしょ・・・」
「何!お前までそんな事を言うのか!」康夫は妻の頬を平手打ちした。