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読み違え&萌え心を揺さぶるシリィズ

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萌え心を揺さぶる友への言葉・その2〜Elegie premiere


** 本作は『ぼくが途方に暮れる理由』に掲載していました **

 選択基準は、すべて私の独断・偏見・願望・妄想による。悪しからず。
 ドイツ語圏に該当するものは入れていない。『読み違えドイツ詩妄想仕様』というシリィズで、あからさまなエコ贔屓をしているためだ。
『その1』にまとめて載せたかったが、長すぎるため単独で紹介することとした。
 どこが辛い(=萌える)って、自分の死に対しこんなにも悲嘆に暮れてる友を、慰めることも抱きしめることもできない現実だ。最終連で示される「僕は〜を思う」の連呼は、胸を打ってやまない。と同時に『その1』で紹介した一篇を思い出す。

◇一人が死に一人が生き残っているときにこそ、
 友情がどんなものであったかが知られる
                     ――司馬 遷

 親しき友にここまで想われるのなら死んでも本望か…って所詮は妄想なんだけど。
 では、スタート。
  
                  ***
◇親しき友よ、
 僕はまたしても君にこの手紙を書く。
 死人に手紙を書くのは僕にもこれが初めてだ。
 明日(あす)の朝、久遠(くおん)の村の老僕がこの手紙を
 極楽にいる君に届けるだろう。
 友よ、笑ってくれ、ぼくを泣かせまいために。
 友よ、言ってくれ、
「僕は君が案じるほど病気ではない」と。
 友よ、来て僕の家の戸口を開けてくれ。
 敷居をまたぎながら僕を尋ねてくれ。
「なぜ君は喪服なんか着ているのか」と。

 また訪ねて来てくれ。
 君は今でもオルテスにいるのだ。
 幸福はここにあるのだ。
 その椅子に帽子を置くがよい。
 のどは渇いてはいないか?
 ここに井戸水と葡萄酒があるぜ。
 僕の老母が二階から降りてきて、
「あら、サマン……」と叫ぶだろう、
 そうして僕の犬は、君の手に頭をこすりつける。

 僕は話す。君はまじめな微笑をもらす。
 時間は存在しない。
 君は僕の語るにまかせる。
 夕暮れが来る。
 黄昏を秋のように見せる
 黄色い光の中を僕らは散歩する。
 僕らは谷川に沿って行く。
 嗄(しわが)れ声の鳩が濃緑(こみどり)のポプラの木で啜(すす)り泣く。
 僕はしきりに喋る。
 君はまた微笑する。
 幸福は沈黙する。
 夏の終りの暗い小径から
 僕は貧しい敷石道に入る、
 青い煙を吐く暗い戸口を飾る
 夕顔の花のそばに蔭が跪いている。

 君の死はなんにも変えなかった。
 君が愛した蔭、 
 君がそこで生き、苦しみ、歌った蔭は
 僕らを去りはしたが
 君を去りはしなかった。
 君の光明は
 美しい夏の夕べ
 われらの前を過ぎ
 麦をお育てになる神様を感じて
 僕らが跪くこの暗闇の中から生まれた。
 暗い昼顔の蔭で万人の犬が吠える。

 僕は君の死は惜しまない。
 人々は君の額の皺に相当な
 月桂冠を置くだろう。
 君をよく知る僕には
 その冠はかえって君を傷つけるとしか思えない。
 君の歌琴(うたごと)を、泣きながら
 君の柩車(きゅうしゃ)に従って行く
 青年たちにかくしてはならないのだ、
 月桂冠を戴(いただ)かずに死に行く人々の光栄を。

 僕は君の死は惜しまない。
 君の「生命(いのち)」は今でもそこにある。
 リラの花をゆする風の声が死なないように、
 そうして数年の後(のち)になって、
 凋(しお)れたと信じていた同じリラの花の中へ 
 また帰ってくるように、
 親しいサマンよ、君の詩も、
 僕らの思想に熟しかけてきた
 青年たちの心を揺すぶりに、やがて帰ってくるだろう。

 食べ物のない彼の群羊(ぐんよう)が小山の上で啼いているのを見て嘆く
 古風な一人の牧人(ぼくじん)のように、
 僕は君の墓の上に立って
 空しくそこに供(そな)うべきものを尋ねるだろう。
 食塩を供えたら仔羊が来てなめてしまうだろう、
 酒を供えたら君のエピゴーネンが飲んでしまうだろう。

 僕は君を思う。
 田舎風な僕の家の客間に君を見た日のように、
 今日もまた日が暮れて行く。
 僕は君を思う。
 僕は故山(こざん)を思う。
 僕は君が案内して歩いてくれた
 ヴェルサイユを思う、
 そこで僕らは歩きながら、
 心さびしく詩句を口ずさんだ。
 僕は君の友人たちを思う、
 僕は君の母上を思う。
 僕は青い湖のふちで
 首につるした鈴を鳴らしながら、
 死ぬ日を待ちながら、
 草を食べていた群羊を思う、
 僕は君を思う。
 僕は天国のひろさを思う。
 僕は果てのない水を
 火の明るさを思う。
 僕は葡萄棚に光る露を思う。
 僕は君を思う。
 僕は僕を思う。
 僕は神を思う。
                  ――ジャム(堀口大學氏訳)