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読み違え&萌え心を揺さぶるシリィズ

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Pansmusik〜牧神の楽


** 本作は『神の園辺』に掲載していました **

 第1章『秋』にこんな場面が出てくる。

 礼拝堂に鎮座する祭壇のかたわらには聖歌隊のための小空間が設けられている。その壁面に飾られたレリーフの詩が『Pansmusik』だったんだ。
 呟きの主は、ヤン=インクヴァーの朗読から聖歌隊の姿が浮かんで思わず口にしたんだろう。僕の方は、詩の題材である《牧人の神》に心を囚われていた。Panか……むしろ綺麗さの逆をついて、牧神になぞらえるのもアリかもしれない。近づくきっかけさえつかめれば――。

 私の中ではハイネ=『女學校』と固定されてしまったため、それ以外の著名なドイツ文豪となると、リルケ、ヘッセ、ゲーテ、ケストナー、ニーチェ等が挙げられるが、『Pansmusik』(邦題『牧神の楽』)はレルケの作品である。
 この詩は物語において、とりたてて重要な地位を占めるものではなかったため作中に載せなかったわけだが、決して適当の産物ではなく、ギムナジウムの礼拝堂で歌う少年たちの姿を想像しながら100篇余のドイツ詩から選び出したという経緯がある。ぜひとも雰囲気を味わっていただきたいので、以下に載せる。

     遠い空の縁(ふち)より一艘の筏が流れくる、
     なつかしいサラバンドに似て
     かすかにひびく楽の音をのせて。
     わしの眼には涙がうかぶ。
 
     はるかにひろがる地平から
     魂があふれでるかに思え、
     日のあたる広野(ひろの)のうえに
     空は預言者のように耳を澄まし、

     そのまたうえの空の耳に
     ささやかな歌をうたうらしい。
     調べは消えることなくただよい、
     ひかりはひかりを抜けてただよう。

     今日やってくるのはこの世界の神、
     葦の筏に腰をおろし、
     大いなる夕べのおだやかな世界を
     楽の音にくりひろげる。

     世界の壮大なひかりをかたむけ
     長い小道の憂いと
     永遠の香にみちる広野(ひろの)のなかに
     ふところ深くより川を流れさせ、

     やわらかな口の音(ね)で
     平原をつくり、あまたの町をつくり、
     生成すべてをつくり出し、
     夕べ、楽の音の炎を消しゆく。
             ※生野幸吉氏、檜山哲彦氏訳 レルケ
                   『ドイツ名詩選』(岩波文庫)

 うむ。再読しても、やはり素晴らしい(評価)。
 宗教曲の歌詞に使われても遜色ない静謐さだ(解釈)。
 これをフリードハイム・ギムナジウムの少年聖歌隊が歌うのだ(妄想)。
 クリスマスミサで、白いカーテンみたいな隊服を着て歌うのだ(妄想)。
 キャンドル片手に歌うのだ(妄想)。
 CDジャケットとかによくあるやつだ(現実)。
 あんな顔のそばで熱くはないのか(疑問)。
 児童虐待ではないのか(疑惑)。
 ロウが手の上に垂れそうなんだけど、怖いんだけど、歌とか歌ってる場合じゃないんだけど、天使の顔はもう無理限界早く終わってぇぇぇ(少年心の声:でも妄想)
 ……あれ、何だかおかしなことに(混乱)。

『Pansmusik』は前述のとおり壁面に飾られたレリーフに彫られているだけの詩という淋しい設定です(現実)。