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夏風吹いて秋風の晴れ

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2階を見上げて


食事を終えるとステファンさんは、買い物にって言いながら小田急線の豪徳寺駅にむかって巨漢を揺らしていた。
取り残された叔父と俺は、商店街を抜けて来た道を戻っていた。
「戻ったら、掃除しますね、2階の部屋・・」
「いや、うちのが帰ってきたらやるから、そこまではいいぞ・・なんか用事あったらこのまま帰ってくれてもいいぞ、ありがとうな」
「予定ないし、たぶん直美も叔母さんと一緒にも戻ってくるだろうから・・待ってますよ、掃除でもしながら」
直美と朝に別れるときに叔父の家で待ってるって約束をしていた。
「そうかぁー じゃぁ 掃除はしなくていいから、のんびり家で昼寝でもしてなよ」
「疲れたらそうします」
掃除はする気があったけど、そう答えていた。
話をしながら商店街を歩く人ごみが少しずつ寂しくなってくると、叔父が1軒の店の前で懐かしそうな顔をしていた。
「この店って昔のままだなぁ・・覚えてるか・・」
小さな洋食屋だった。
「覚えてますよ、よく叔父さんの家に遊びに来ると食べさせてもらったから・・何食べたっけかなぁ・・オムライスかハンバーグだったかな、玉子が乗ってるのだったかな・・」
「そうかぁー覚えてるか・・俺は一緒にはあんまり来なかったな」
「そうですね、叔母さんと良く食べに来たような記憶ですかね・・」
今も叔父は仕事で忙しそうにしているけど、小さな頃の記憶も叔父は仕事で家にあまりいなかったはずだった。
「この道あんまり、歩かないんですか、叔父さん?」
少し立ち止まって、店の様子を伺っていた叔父に聞いていた。
「家からは車で出かけるからな・・めったにこの道は歩かないな・・」
「そうか・・たまには歩いたほうがいいですよ、ゴルフ場ばっかり歩いてないで・・たまに歩くとけっこう面白いかもしれないですよ」
「うーん、見たことのない店もけっこうあるなぁ・・」
洋食屋さんの前から足を進めていた。
「子供の頃はもっと、この道も大きかった記憶なんだけど、狭いですよね・・車1台がやっとですもんね」
「そりゃぁ、お前の体がでかくなったからだろ」
「そういう言い方したら、終わっちゃうんだけど」
少し笑って叔父にだった。俺の身長はたしかに叔父より大きくなっていた。

ステファンさんの教会の角を曲がって叔父さんの家にたどり着いた時は、また額から汗が流れていた。
8月も終わりに近付いているのに、まだまだ暑い東京だった。
「叔父さん、バケツとか何処にあるかってわかりますかぁー」
2階の部屋にあがって下に向かって声を出していた。何も無くなった部屋はすっかり綺麗で、思ったより広い空間だった。
自分の部屋でもないのに、ここにベッドでここに机がいいなぁーって考えていた。
「わからないけど、洗濯機のあたりだと思うんだけどぉー」
叔父の声が少し遅れて聞こえていた。思ったとおりだったから、1階に降りて自分で探すと、お風呂場の横の脱衣所の奥の扉の後ろに掃除セットは全て揃っていた。もちろんバケツも雑巾もだった。
叔父はなぜだか、外を眺めているようだった。
「やらなくていいって・・」
振り返って言われていた。
「いや、たまには面白そうだから・・飽きたらやめますから・・」
本当のことだった。
2階の部屋の床は、こんな古い洋館でフローリングって言葉があたっているのかどうかはわからなかったけれど、綺麗に古い木が張られていた。窓枠はかわいい、まるで外国の家そのものの木の枠だった。
(やっぱり 床って最後かなぁ、ゴミが落ちるかもしれないもんなぁ)1人でつぶやいて、どこからだろうって考えていた。結局、始めたのは窓ガラスからだった。
部屋の中に面したガラスから綺麗にして、外側の窓ガラスを掃除しようと体を半分外に乗り出すと、意識したわけではなかったけれど、目に入ったのは、隣の教会の濃い緑の芝生の先の小さなお墓だった。
緑に映える白い石で出来たお墓は、不謹慎かもしれなかったが、かわいいものだった。
(なんで、俺がお前が使ってた部屋の掃除かね・・)
返事も無いのにつぶやいていた。
(まぁ いいか・・なんかさぁー 女の子の部屋になるらしいぞ・・妹だってさ、お前の・・恥ずかしいでしょ?きっとさ、この窓にも、かわいい柄のカーテンとか、かかっちゃうぞ・・そこから、見て笑っとけ・・)
声にはださなかったけど、なんだか、おかしくて笑っていた。
朝には青いのカーテンがかかっていたけど、今は何も無い窓になっていた。午後には叔母と直美が買ってきた新しいカーテンが窓を飾るはずだった。
(こんなもんでいいか・・)
自分にも、白い十字架にもだった。
「おーい、電気屋さん来たからあがってもらうぞぉー」
バケツに入れた水に雑巾を入れて床を掃除しようとしていると1階から叔父の声がしていた。何年もほとんど使われていなかった部屋に、クーラーが新しく入ることになっていた。
「はぃ、いいですよぉー あがってもらってください、どこにつけるんですかぁー」
「電気屋さんと相談してくれるかぁー」
「わかりましたぁー」
大声をはりあげていると、クーラー工事の人が2人で階段を上がってきていた。頭をさげて、「どこにつけましょうか?おまかせしますけど」って聞くと、「ここに穴を開けさせてもらって、この辺がいいと思いますが」って言われたから、「はぃ」って返事をしていた。
自分でも、このへんだろうなって思っていた場所だった。
「叔父さーん、見ないのぉー」
「まかせるからぁー」
大きな声だった。
結局そのまま、言われた場所に設置する事をお願いすると若い電気屋さんが階段を降りて外から壁に長い梯子をかけだしていた。中のもう1人がそれを確認すると小さな脚立に立って壁に穴を開け始めていた。
(床の掃除を先にしなくて良かった)だった。

電動工具の音に、さすがに1階に非難すると、叔父の姿は何処にも見あたらなかった。
見つけ出すと、叔父は庭にまわって、工事をしている2階を見上げているようだった。その先には本当に青い空が広がっていて、俺には気持ちのいい空だった。厚い入道雲も広がっていたけどその先は、天高くって感じだった。
(2人で何をみてるのって)隣の芝生の先から声が聞こえそうだった。


作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生