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夏風吹いて秋風の晴れ

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もう1人


「あがりまっせぇー 早いけど、待たせてもらうでぇー」
玄関からステファンさんの大きな声と、もう足音がこっちに向かって聞こえていた。
「かわいい お客さん連れてきましたでぇー・・ほら、遠慮せんでええがな、ここでええんやろ?」
ステファンさんの声のするほうに顔を向けると巨漢の神父の前に小さな女の子が立っていた。
「弓子おねーちゃん」
「純ちゃん」
小さな子は弓子ちゃんに近付いていた。弓子ちゃんはビックリした顔で声を出していた。
「玄関のところで立ってましたわ・・」
ステファンさんが和室の部屋に座りながら叔父さんと叔母さんに言っていた。
「どうしたの、1人でここまでどうやって来たの?」
弓子ちゃんが目の前に顔を上げて立っている女の子の頭をなでながらだった。
「電車で・・・これ・・・」
「よく 来れたねぇー 内緒で来ちゃったんでしょ」
小さな子が出した紙切れを見ながら弓子ちゃんが聞いていた。紙には簡単な地図のようなものが書かれているようだった。誰かが書いてくれたようだった。
「うん」
うなずいて小学生は下から弓子ちゃんの顔を見上げていた。
「うんじゃないでしょ、だめでしょ・・・仕方ないなぁーここに座って・・・」
手を取ってソファーに小さな子を座らせていた。
どうやら、突然現れた小さな子は弓子ちゃんと同じ施設の子のようだった。

「今、麦茶だしてあげるね、純ちゃんって言うのよね・・こんにちは、よく来たわね、偉いわね。前に会ったことあるんだけどわかるかな?」
叔母が小さい子の顔を見つめて台所に向かっていた。
「はぃ、どうぞ」
叔母が氷の入った麦茶を、返事のない女の子にだすと、少しだけ時間を置いておいしそうにそれに口をつけていた。
「叔母さん、電話貸してください、捜してると思うから・・」
弓子ちゃんが電話の置かれた場所を見ながらだった。
「そうね、でも、私が電話するわ、心配してるわよね・・」
言い終えると、叔母が受話器をとって施設に電話をかけていた。
事情を説明して、相手に安心してくださいって伝えていた。一緒に弓子ちゃんを今夜、ここに泊める話をして、許せるなら一緒に、純ちゃんもそうしますって話していた。
俺と直美は話を聞きながら小さな子を見ていた。
麦茶を静かに飲んでいる女の子は小学校1年生か2年生のように見えた。
弓子ちゃんを見た表情は柔らかだったけれど、今は固い表情のように思えていた。
「大丈夫よ、電話したからね、ゆっくりしてね」
電話を終えた叔母がやさしい口調でだった。
「お腹空いちゃったかな、もうすぐご飯だからね、ちょっと待てってね」
「はぃ」
やり取りを聞いていた俺たちに、小さな固い声の返事が聞こえていた。
「純ちゃんね、わたしは直美ね、よろしくね、じゃぁこっちで、弓子ちゃんと座って待てってね」
話を見守っていた直美が挨拶して、2人を和室にうながしていた。
「弓子ちゃんは座ってて、あとは運ぶだけだからね、劉がやるから」
「すいません」
「大丈夫よ、さぁ、おいしくみんなで食べようね、すぐだからね」
直美が2人に元気に話していた。
あわてて俺は和室から台所に向かっていた。
「えっと、劉ちゃんね、俺・・よろしく」
もちろんすれ違いに、小さな子に話しかけながらだった。返事はもらえなかった。

和室には叔父とステファンさん、それに弓子ちゃんと小学生が座って、台所から出来上がった料理や飲み物を俺と直美と叔母さんで運び始めていた。
直美が小声で俺に話しかけていた。
「よく 来れたね、しっかりした子なんだね・・新宿で乗り換えて小田急線に乗るだけでも感心しちゃう」
直美がすき焼き鍋を用意しながらだった。
「うん、俺なら来れないな・・・」
「私はどうなんだろう・・ここまで来れるかなぁー 小さい時からしっかりしてたはずだけど・・」
「でも、必死だったんじゃない、事故とかなくてよかったよ」
「うん、ほんとだよね。はぃ、これもってって」
言われて食器の乗ったお盆を渡されていた。
和室に行くと少し心配はしてたけど、4人はステファンさんがいることもあって、それなりに、なごやかそうだった。
入れ替わりで叔母と直美が料理を運んでいた。
何回かを往復して台所に戻ると直美と叔母さんの話が聞こえていた。
「弓子ちゃんの事を大好きみたいなのよ、あの子・・おねーちゃんって呼んでるしね・・」
叔母が直美にだった。
「妹みたいなものなのかな・・ 弓子ちゃんの」
「そうなのよね」
叔母が少し何かを考えながら直美に返事をしていた。
「叔母さん、もう運ぶものないかな・・」
話の間に入っていた。
「もう、お終い、さぁー 頂きましょう、直美ちゃんもね」
叔母に言われて台所を続いて出ていた。
時間は7時になろうとしていた。
昨日は2人きりの晩御飯を見ていた洋館は、今夜は7人のにぎやかな時間を見守っていた。それと、先に晩御飯を食べて、横になってお腹を見せた太った猫が俺たちを見ていた。


作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生