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淡墨桜よ、朱となり舞い上がれ!

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『淡墨桜よ、朱となり舞い上がれ!』



 湖が遠くに望める高台に、一本の大きな桜の木がある。
 その桜は淡墨桜(うすずみざくら)と呼ばれている。

 蕾の時はピンク色。満開となれば、仄(ほの)かな朱を残すが、白の強さが際立ってくる。 
 そして花びらを、徐々に淡い墨色へと変化させ散って行く。

 そんな淡墨桜、毎年この時節ともなれば桜花爛漫と花を咲かせ、人たちを魅了してきた。
そして、今年も咲き誇り、目もあやなの白の絢爛(けんらん)さで、その姿を目にした者たちを圧倒させている。

 しかし、この桜もあと一週間もすれば、一つ一つの花びらを白から淡墨(うすずみ)色へと変化させて行くことだろう。 
 それはまるで、今見る煌(きら)びやかな世界とは違うグレーな世界へと、問答無用で人たちを誘(いざな)うかのようにである。
 そしてその幕引きは、すべてが淡墨の花吹雪となり、一炊(いつすい)の夢かのように儚くも舞い散って行くのだ。

 花木大輔(はなきだいすけ)は、今を盛りに咲き誇る淡墨桜を目の前にして、一人っきりでベンチに座っている。そして、その艶やかさに見惚れながらも、やがてやって来るであろう淡墨の散り様を漠然と思い浮かべている。
 そのせいか心が晴れない。なぜなら、その最後の色が気に食わないのだ。

「あ~あ・・・・・・、なぜ?」
 大輔がぽつりと呟く。そして、春爛漫の輝きの中をそよ吹く風を感じながら、大きく息を吸い込んだ。

「今年もまた、淡墨となって散って行くのだろうなあ。紗智子(さちこ)、ゴメンなさい」
 大輔はふーと息を吐くと同時に、そんな言葉を口にした。そして潤む目から、涙が一筋頬を伝い落ちる。

 そんな精気の抜けてしまった大輔の肩に、一片(ひとひら)の花びらがひらひらと舞い落ちてくる。
 大輔はそれをそっと摘み取る。そして、老いた手の平の中に、それを大事そうに包み込んだ。