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炎舞  第二章 『開花』

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 静かで暗く、月の光だけが鮮やかに浮かび上がる。
 薄紅の花弁に、血の紅と鉛の鈍(にび)色が染み込んで、桜の樹の下に血桜の〝絨毯〟が広がっていた。
 唇を赤く染めた玉響の喉が、沈黙の中でごくり、と鳴る。陽炎の腕の傷口から滴る血を舌でなぞると、飲みそこねた血が口の端から滑り落ちた―――。
「ああ……とても美しいよ、陽炎……」
 夜の影が、覆い隠していた玉響の表情を照らし出す。酷薄な笑みを洩らし、その姿は獣のように血の甘さに酔っていた。
「お前の白い柔肌には、柘榴のように開いた赤と狂乱の桜がよく似合う……」
 舞い散る花弁を背に、玉響はゆっくりと腰を上げ、〝もの言わぬ〟陽炎を見下ろした。
 春の夜風が玉響の長い髪を乱し、掛け衿から伸びる首筋を露にする。玉響は、ああ、と温んだ吐息を零すと、頬を傾けて目を細め、唇には艶やかな孤を描かせた。
「愛する者を己の手で殺めた感触はどうであった? 〝玉響〟よ……」
 喉を震わせながら、〝彼〟に問いかける。
「甘美な味であったぞ、お前の女は。クク……」
 ぶら下げた剣の切っ先から、ぽたぽたと滴る血。
「まだだ。絶望するのは、まだまだ先だぞ」
 その目が一瞬で、恨みに満ちたものに変わった。横一文字に刀を振るい、刀身にまとわりついた血を吹き飛ばす。
「生きとし生けるものを、劫火の中に叩きこんでやる」
 事切れ、変わり果てた陽炎の瞳が、ただただ、世の呪詛を吐く〝神明〟の姿を映していた。

作品名:炎舞  第二章 『開花』 作家名:愁水