仮面
The Shade in Darkness
何も見えない。
何も聴こえない。
俺は人造人間(アンドロイド)のように、ただ無感情に、無感動に、生きながら死んでいる。あるいは、死にながら生きている。心が。
俺は何をやっても中途半端で、完璧なんて言葉は俺から遠く離れてしまって、届きもしない。生れ落ちたときから影を歩く運命。抗えない理。言うなれば、光があるなら、誰かが影を背負うのだ。その誰かを全員が自分じゃないと思いたがっている。だけど所詮光の当たる場所なんてごくわずかで、あとは同じ人間とは思えない、生まれながらに当たりを引いて光り輝いている人間の影に隠れるようにして生きている。
もちろん、影の中にもヒエラルキーが存在する。俺はそのヒエラルキーの底辺も底辺、見向きもされないようなどん底で、影の頂点すら見えずに恨めしく見上げている。
（恨めしく？）
そんなわけない。俺は頂点なんてどうだっていいのだ。俺は俺が光り輝く人間だなんて、そんな愚かなことを思ってるわけじゃないし、どうせ奈落の底の影すら見えない闇の中の住人だってことくらい知りたくないほど知りつくしてる。だからどうだというのだ。
所詮、俺は生きながらにして死んでいる。
何も見えず、何も聴こえないんじゃない。
本当は何も見たくなんかないし、何も聴きたくなんかない。
すべては煩わしく、俺の周りをざわつかせているすべてのモノを片っ端からぶっ壊してやりたいと思っているのだ。多分。
俺ひとりぶっ壊れたくらいで、何も揺るぎやしない。
ヒエラルキーの底辺なんて、そこらへんに散らばってる塵以下と同じだ。そして塵は塵として葬られる運命にある。誰だって汚い部屋にいたくないのと同じで、なければ喜ばれるものなのだ。俺はそれをただ無感情に甘受している。
理由なんか何もない。俺が生きている意味も価値も、俺自身では何も測れない。それでもまだ生きている理由なんて、それこそ知るわけもない。
影は、ただ暗闇の中で音もなく存在しているのだ。
誰からも見られず、声も届かず。
だから俺は見ることも聴くことも望みはしない。おそらくこの存在が人知れず消されたとしても。