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仮面

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Solitude



 俺が世間ってヤツからはみ出てることなんて、現在進行中で知ってる。すべてにおいて、俺にとっての世間はおそろしく狭い。
(所詮、わざと生きにくくしたがるヒトの習性だ)
 自由と言う言葉に憧れるために、自由を奪って縛り付けている。心底馬鹿なんじゃないのかと叫んでやりたくなる衝動に駆られる。……ごくたまに。

 周りから聞かされる結婚だの出産だのの、世間一般ごく普通に生きてる人間にとっての当たり前な「幸せ」の象徴たる話が湧き出てくると、俺はこんな捻くれた感情を持つ人間とは思えないほど当たり障りのない「オメデトウ」を言う。
 捻れまくった俺の精神構造上で、こんな普通の言葉をさらりと言えるなんて、むしろ俺自身が一番驚いた。
(オメデタイ、なんて思ってないくせに。総じて俺は嘘つきだ)
 ……そんなの、いまに始まったことじゃない。そんなことを心の中だけで思って───さすがの俺でも友達全部失うわけにいかない。なんてことを考えている時点で俺はまだきっとマトモな理性ってやつが残ってる。というより単純に狭量で器が小さくて俺が臆病だと言う話だ───俺はひとりで歩いている。

 どうしてひとりなのか。
 なぜ生きてるのか。
 どうして俺は生きたいなんて思っちゃいないのに、生きてるのか。否──、心の底では死にたいなんてどうせ思ってない。そういう自分に酔いたいだけだ。
(愚かすぎる。けどヒトは得てして愚かしいイキモノだ)
 すべての物事において意味づけをしたがる。俺もそんな馬鹿の一人だ。
 どうあがいたってひとりだ。
 なぜ、どうして、いつまで?
 どうせ答えなんて出やしない、求めてすらいないことを延々と思って、下を向きながら歩く。結論なんて決まってる、はなから。

 俺が求めた孤独、Solitude。
 Solitude───Lonelinessではない、決して。
 意味はどちらも孤独。
 意味だけ見ればさほどの違いがない。強がりだろうがなんだろうが、それでも違うんだと俺は勝手に思う。
(俺が望んだ。だれも俺のそばにはいらない)
 どうせいなくなる。裏切って、飛び立っていく。ならはじめから俺は孤独を選ぶ。
(Solitude。だれかとの未来なんてサヨナラだ)

(たとえば俺がこんな風に妄想しながら歩いていたって世界はなにも変わりはしない)
 当たり前だ。そう思いながら、俺はどこかそれをきっと不満に思っている。
 世間体なんて気にするほうが愚かなんだと表面上で嘲笑いながら、それでも俺自身がそれに縛られてることに目を向けながら逸らしてる。


「……くたばっちまえ」
 なにもかも、全部。
 俺は呟いて重い頭を抱えながら歩き続けた。


作品名:仮面 作家名:深月