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防腐剤

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防腐剤



 風邪で寝込んでいる妻から何か買ってきてほしいと彼が頼まれたのは、午後五時半頃だっただろうか。駅の雑踏で電話に出ると、弓枝の声は炊飯器がこわれたと云った。結婚して六年の真輔は、バス停の近くのコンビニでおにぎりと惣菜と、インスタント味噌汁を買ってきた。ドアを開けて入るとすぐに、男のアナウンサーの声で午後七時だと云うラジオの音声が聞こえた。次いで、円が最高値だと云っているのが聞こえた。
 グレーのソファーの弓枝は真輔を見ると、早かったのね、と云った。彼女の服装は水色のジャージーである。ラジオの音声が切れた。
「おにぎりが百円セール中だったよ。でも、前は最初から全部百円だったよな。給料が上がらないのに、物価だけ上がるっていうのはおかしいと思うな」
 真輔はテーブルのノートパソコンの隣に白い袋を置いた。
「恐ろしい話を聞いたわ。真夏にエアコンのない部屋で死んでたんだって」
 真輔は味噌汁のためにお湯を沸かそうと思っている。
「寝てなかったのか、ユミ」
 微妙に染めた弓枝の髪の毛は素晴らしいと、真輔は思いながら訊いた。
「熱はもう下がったから……」
作品名:防腐剤 作家名:マナーモード