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みっふー♪
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novelistID. 21864
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おじちゃんと子供たちのための不条理バイエル

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LESSON1



+++

♪はーろうぃんはーろうぃんおなかをすかせてオバケが来るよ〜、
食うかしゃべるか一切どっちもしないでいれば大層愛らしい唇にでたらめな歌をカマしつつ、七分丈にチャイナシューズの足元でくるくる華麗なステップを踏みながら、百均のコスプレコーナーでゲットした魔女っ娘デカ帽子をおだんご頭の上に揚々と乗っけた少女がいかにも付属のやっつけ感アリアリの雑なバリ取りのプラスチック製チーピーお星様ステッキをえいやと得意げに突き出して言った。
「どりんく&いーといん!」
「……」
天パ社長(肩書き上一応)は、じむしょのなんちゃって社長イスに腕組みしたまま、半眼をさらに半分細めた。
「……ずいぶん図々しいはろうぃんだな、」
「そーだよ、せめて飲み物か食べ物か、タカるのはどっちか一つにしときなよ」
盆に載せて三人分のお茶を運んできたメガネ少年がたしなめた。
「……。」
イヤそーいう問題じゃねーだろ、細心の注意を払いつつ気分屋のリクライニングにふんぞり返って天パは思った。と、
――ガチャ!
ノックもせずにドアが開いて、外からさらに招かれざる問題外の外野スタンド席がやって来た。
「はっぴーはーろうぃんっ!」
時期が時期なので合法どらぁぐくいーん、もとい女装子がやれるとばかり必要以上に張り切ってある意味パクリ……オマージュまんまの白い着ぐるみオバケ(毛三本の分際でいっちょまえに“リンス派orトリートメント派?”のプラカード付き)を連れた厚塗り魔女そのものの女装子が悪びれもせず声を張った。
「いやぁ、古巣というか原点に返った気がするなぁ〜、」
――スリットチャイナも俺ちょー似合うし捨て難いけど、基本はやっぱゴスっ子魔女子だよねーっ!
「……おいネ申楽、」
表情を変えずに天パ社長が顎をしゃくった。
「イエッサ!」
最敬礼した少女は星のステッキを一振り、♯ぺぱろにまかろにぜんぶのせ〜、イタイデムパは遠いお空へ飛んで行け〜!
――トリャ!
謎の呪文の黒魔術の正体は少女のカモシカのよーなしなやかかつ強靭な足腰から見えない速さで繰り出された蹴り技一閃だった。
「あーーーれーーーーー」
一発場外、じむしょの窓を突き破り、デムパ魔女と連れのパチもんオバケはこうして昼間のお空の星となった。
「……」
やれやれ、拾ってきたときから機嫌の悪い社長イスのマッサージ機能の代わりに天パ社長がセルフで肩の凝りをほぐしていると、
――コンコン、
今度は律儀にドアをノックする音がした。
「はぁーいっ」
盆を置いてメガネ少年が応対した。
「どちらさ……」
ドアを開けると立っていたのは、『職と住居を!』硬い表情でプラカードを掲げたグラサンおじさんだった。おそらくさっきの着ぐるみが吹っ飛ばされるとき表に落として行ったものを再利用したのだろう、涙ぐましい主張は持ち手を打ち付けたカードの裏側にマジックで殴り書きしてあった。
「イヤあのココそーゆーデモ会場じゃないんでー、」
少年の後ろから覗き込んだ少女が無慈悲にドアを閉めようとした。
「!」
おじさんは反射的に擦り切れ草履の片足を隙間に差し込んだ。
「あのー、ウチじゃ受け付けてないんで本当困りますからぁー」
少女は力任せにドアを引く。
「……!」
生きるためにおじさんだって必死なのだ、脂汗を浮かべて踏ん張る哀れな姿を見て、少女に何ら感情を揺さぶられるところはないのだろうか、だとしたらアンタはオニや、地獄の門番やでかぐらはん!
「マ夕゛オさんっ!」
「!」
少年が袂から取り出してブン投げた何かを、眼の色変えて少女は追い掛けて行った。こうして少女の怪力に圧縮されかける寸前、あわやのところで少年はおじさんを救い出すことに成功した。
「……」
ひしゃげたプラカードに縋っておじさんはへたり込んだ。
「大丈夫ですかっ?!」
ドアを開放し、少年はおじさんの猫背に手を掛けた。よれよれの髭面を上げておじさんが言った。
「……そっ、その前に何か食べるものを……」
プラカードを投げ出しておじさんは力尽きた。
「ちょっとォぱっつんこれカラじゃーんっ」
すこんぶの空き箱を掴まされた少女が部屋の隅からブータレながら戻って来た。
「……」
本当にもー世話の焼ける、口では文句を言いながら、少年は甲斐甲斐しくおじさんを介抱し、応接机の席に着かせて用意した小鉢と箸を置いた。
「!」
目の前に出されたそれを見ておじさんの土気色の顔に生気が戻った。
皿の中身は階下のまだむが鍋ごとお裾分けしてくれたかぼちゃと身欠き鰊の昆布巻きの煮物だ。酒焼けのダミ声に仕上げコーティング加工を施されたドスの効いた外見と裏腹に、あれでまだむの作るものはしみじみとした滋味と風味に満ちている。カツ丼出前専門の食堂でも開いてりゃ今頃はその道でカリスマ極めて、『留置場の母』かなんか呼ばれて店の壁いちめん表彰状だらけだったに違いない。
「……男タラシ込むにはまず胃袋掴めって言うからな」
――オマエも見習えよ、メガネ助手が人数分配膳した煮物をつつきながら天パ社長が言った。ホロホロに煮えたかぼちゃまみれの黄色い口元を尖らせて少女は胸を張った。
「てゆーかァ、私はどっちかゆーと胃袋掴まれる側の人間ですからぁー、」
――屈筋パパかこまっちゃんクラスのシェフは捕まえときたいところね!
「――、」
グルメマンガ談義でひとしきり周囲が盛り上がっている間、おじさんは一言もしゃべらず何杯も鍋から勝手にお代わりしては煮物にがっついた。
腹が膨れてようやくいくらか落ち着いたのか、ソファの上でちんまり背を屈めて食後のお茶を啜っていたおじさんに唐突に少女が言った。
「てか職より住居より胃袋より、おじちゃんにはまずコレだよっ!」
「ぅえっ?」
湯呑みを抱えておじさんが振り向いた。少女の眉が不敵に歪んだ。
「オラオラおっさん、天国行きでイヤッフしたけりゃとっととそこに土下座しなメイビー!」
「ヒィッ!」
少女の威圧を避けて飛び退ったおじさんはソファの端からずり落ちた。寄る年波で立ち上がろうにも足元がおぼつかず、生まれたての子鹿ばりに痩せた脛を縺れさせるばかりで床にへばりつく。
「……っとその前に、」
振り上げかけたチャイナシューズを引っ込めて少女がぽつりと言った。
「――おじちゃんお代」
ひれ伏すおじさんの頭上に少女が掌を突き出した。
「……へっ?」
おじさんは恐る恐る頭を上げた。醒めた眼をした少女が顎をしゃくった。