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ルック・湊(ルク主)

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決断



ビクトールの、“なんとか負傷者の手当ては終わったぜ。戦死者は思ったほど多くはなかったが・・・”という言葉が湊にはこたえた。
そして広間では皆がほぼ押し黙っている。
それはそうだろう。シュウの策がまったくもってルカには効かなかった。
湊もあらためて間近でルカを再度見て、全身が凍りつきそうだった。
そして数はそれほどいないといえども、やはり免れない戦死。自分やナナミがなっていてもおかしくはなかったんだと改めて思った。特にナナミの事を考えたら吐き気をもよおす。
女子供は戦場に出さない、という本来なら至極当たり前なルールを作りたいと前から思ってはいたが、いかんせん、兵の数が少なすぎた。
湊は黙って広間から出る。
ホールに出ると、ルックがいつもの石板前に立っていた。その日常的な光景と、あとルックに会えたという気持ちで湊はなんともいえない気持ちが体中に広がる。

「ルッ・・・」
「湊殿ですな。」

その時、外からの入り口から知らない男が入って来る。

「・・・誰、あなたは。」

とっさに声をかけられたとはいえこの状態である。さすがの湊も警戒した声をあげた。湊にもその男にも気付いたルックがスッと湊に近づき、湊の前にたちはだかると、ロッドをかまえる。

「顔を合わせるのは初めてですな。湊殿。わしはレオン・シルバーバーグ。今は王国軍の軍師を務めておる。おや、ルックではないか。今回もレックなんとかに言われて来たという訳か。」
「・・・。」
「なっ!?なんでそんな人がここに!?って、ルック、知り合いなの!?」
「戦いに敗れ、逃げる軍にまぎれるなどたやすいことだ。湊殿。あなたに言付けを頼みましょう。この手紙をシュウに渡してもらいたい。」

唖然としている湊にかまわず、レオンは近づいて手紙を差し出してきた。ルックが黙って前に出てその手紙を受け取る。

「まあ、いい。頼みましたぞ、湊殿。長居は出来ぬゆえ、これで失礼させてもらう。それではご武運を、湊殿。」

そういうと、ずっと落ち着いたままの様子のレオンは踵を返し、出て行った。

「・・・ルック・・・?」
「・・・ああ。前の戦いではあいつは108星の一人だった。とりあえず、手紙。シュウに渡したほうがいい。」
「あ、う、うん。」

ルックに触れようとした湊に、行け、とばかりにルックに手で制止され、湊は振り返りつつもまた2階の広間に戻って行った。

「湊殿?いかがされました?」

出て行った湊が落ち着かない様子で何か手紙らしきものを持って戻ってきたので、シュウが聞いた。

「・・・レオンて人が・・・シュウに手紙を、と。」
「レオンって・・・レオン・シルバーバーグ??」

シュウが驚いて手紙を受け取る。しばらく読んでいたシュウが目をあげ、湊を見て言った。

「今夜・・・ルカ・ブライトによる夜襲があります。多分これが我々に残された最後のチャンスになります。全軍を出して、ルカ・ブライトを待ち伏せ、これを討ち取ります。」

そのセリフを聞き、その場にいた者全員が驚く。

「夜襲だと!!しかし、なぜ敵の軍師が・・・ワナでは・・・」

キバ将軍が口を開いた。

「そうかもしれぬ。しかし、確かな優位にありながらあの人がこのような策をうつとは考えられん。それに・・・。・・・湊殿。ご決断をお願いします。」

そう。決断しないといけないのは湊だった。
いくらシュウが頭のキレる軍師でも。いくらキバ将軍やリドリー将軍がすばらしい猛者でも。いくら・・・そう、いくらすぐれた人々がまわりにいようが、決断するのは湊でないといけなかった。
こんな重要な、しかも恐るべき策。失敗すれば想像を絶するような死傷者が出るに違いない策。

「・・・少し・・・少しだけ、考えさせて。」
「・・・分かりました。ですが湊殿。もう、これしか・・・。いえ、お早いご決断を。」

湊はまた広間から出ていった。その後ろ姿を見ながら、ビクトールがボソリ、とつぶやいた。

「・・・辛ぇだろうな・・・。」
「・・・ああ、分かっている。だが、それでも湊殿以外、この同盟軍のリーダーはあり得んのだ。・・・仕方、ない・・・。」

シュウが表情を殺した様子でそれに答えた。
その湊はまた1階のホールに来ていた。そして今もなお石板前に立っているルックを見て、ホッとため息をつく。

「ルック・・・。」
「?終わったのか・・・、いや。・・・おいで。」
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ