ルック・湊(ルク主)
艶跡
湊の朝は挨拶で始まる。
「おはよう。」
「お、なんか元気ねぇじゃねぇか、湊!なんだぁ、ルックがいないからかぁ?」
湊の朝はとりあえず、急ぎの会議や用事がない限りは城内をうろつくのが日課だ。で、ビクトールに会ったので挨拶したら、そう言われた。
・・・やっぱルックが好きなの、バレてるのかな・・・?と湊はひそかに思った。まあ、そっちの好きじゃなくても、あんなに普段からルックによく会いにいっている訳だし、そう思われても仕方ないかもしれないけれども。
「あ、おはようございます、湊さん。」
「おはよー、フッチ。」
湊がニッコリと首をかたむけて挨拶したとたん、なぜかフッチがほんのり顔を赤らめた。
「?フッチ?」
「あー・・・その、あまり動かないほうがいいかも、しれません、よ。で、ではっ。」
まったくもって訳の分からない事を言ったかと思うと、フッチは顔をそらせたまま、去っていった。なんだろう・・・?
「おはようございます!湊どの!」
次にマイクロトフとすれ違う。湊は立ち止ってニッコリと挨拶した。
「おはよう、マイクさん。良い天気ですね。」
「そうで・・・っ!?」
「?どうか、したんですか・・・?」
「え?ああ、いや、ゴホン、何も。っでは、俺はこれで失礼いたしますっ。」
なんだかマイクロトフの様子も変な気がしたけれども・・・それにしても相変わらずきっちりとした感じの人だなあ、と思いつつ、湊は歩き出す。
「ああ、おはようございます、湊どの。マイクを見かけませんでしたか?」
「あ、おはようございます、カミューさん。マイクさんなら今こっちを・・・」
湊はニッコリ挨拶しながら首だけ後ろ向きに、マイクロトフが去って行った方向を向いて言いかけた。
と、カミューがふと湊の黄色いスカーフにふれる。
「?どうしたんですか・・・?」
「ああ、スカーフが少し曲がっておりましたので。」
「あ、そうなんだ、ありがとう、カミューさんっ。」
「いえ、かまいませんよ。・・・なんなら上書きしたいくらいで・・・」
「は?」
「いえ、お気になさらず。マイクはあちらですか、ありがとうございます、では失礼いたしますね。」
カミューはニッコリ笑みを見せて去って行った。
なんとなく、妙だなぁ、と思いつつもその後会ったメグやチャコ、トウタにカボチャなどはいつも通りなので気にせずにいた。
その後シュウのいる執務室に行く。とりあえず今日は何もないようで、少しの書類にサインだけした。
座って、最後の書類にサインをし終えると、ふと用事でそばにきたシュウがなぜか固まっているのに気付いた。
「??シュウさん?どうかしたの?」
どうかしたのだろうか、と湊はシュウを見上げた。
「ああ、いや・・・。」
「?どうもしないならいいんだけど。じゃあサインも終わったし、僕ご飯でも食べに行ってくるよ!」
そう言って湊は立ち上がった。
「ああ、そうですね。あ、ちょっと・・・湊どの。」
「ん?」
「スカーフがゆるんでます。軍主は身だしなみも大切ですからね、ちょっと、失礼・・・。」
そう言ってシュウは湊のスカーフを結びなおした。
「ありがとう、シュウさん!じゃあ!」
湊はニッコリとしてお礼を言ってから部屋を出た。背後でため息が聞こえたような気がしたんだけれども・・・気のせいかな?
それにしても今日はスカーフ、結び方、そんな変だったのかな?
いつもしてる動作だから、特に鏡は見ずに結んでいるんだけれども、これからはやっぱりちゃんと見ながら結んだ方がいいのだろうか。
湊はそう思いながらレストランへ向かい、ランチを食べた。
シュウが結びなおしてくれたからか、その後は朝みたいな、なんとなく様子が変な人はいなかった。
・・・よっぽど結び方、おかしかったんだろうか・・・ちょっと恥ずかしいな・・・そう思いながら歩いていると、ホールに出てきた。
石板の前を見ても、いつも見える姿がない。
分かっていても寂しく思い、何気に石板前に腰をおろした。
ふぅ、とため息をついてから体育座りをして膝に顎をのせてぼんやりしていると、シーナがやってきた。
「あ、いたいた。湊ってルックいないとほんとどこにいるか分かんねえな。」
「な、なんだよ、それっ。・・・。何、何か用?」
「ルックの口調真似ても似てねぇか・・・」
シーナを見上げて言った湊に笑いかけて似てない、と言いかけたシーナが笑みを張り付けたまま一瞬固まった。
「?どうしたの、シーナまで??」
「あ?ああ、いや、なんつーか、な。お前、気づいてない訳?」
「何に?」
全く意味が分からない、といった風な湊に、ク、と笑いながら、シーナは湊のとなりに座りこんだ。
「湊さー、今朝、鏡、見た?」
「あーちゃんとは見てない。あれ?スカーフ、またおかしくなってるの?」
「は?いや・・・。つか、もしかして知らねえんじゃ・・・。」
「何が?さっきから、変だよ?」
「湊ってさ、キスマークって、知ってる?」
こうズバリ聞くと分かるだろう、とシーナは思った。一見分かりにくいが、首をあげた際に見えた、小さな痣。
この位置だと、スカーフがある為、あえて目線をそこに向けないとなかなか見えはしないだろうが、見ようと思えば割と気づきやすい位置。
「はあ?僕をいくつだと思ってるんだよ。それくらい知ってるよ。」
「・・・お前、自分についてたん、気づいてなかった?」
「え?うそ?どこ?あれ?でも口紅つけてるような人とぶつかった記憶なんてないけど・・・。」
「ぶはっ。さすが湊だな。そっちじゃねえよ。あーもういいや、ちょ、こっち、来いよ。」
シーナは噴き出した後で、立ち上がり、湊の腕もひっぱる。
「なんだよー。」
そうしてつれてこられたのはビッキーの傍の大きな鏡。ちなみにビッキーはまた立ったまま居眠り中。
「ちょっと、いいか?」
そう言って、シーナは湊の首元のスカーフを緩める。そして鏡に向かわせた。
「なんなの?」
「よく見ろよ。」
「?・・・。・・・?・・・・。・・・・・・・!?」
湊の顔が、疑問形から真顔に、そして理解したかのようにはっとしたとたん、真っ赤になりだした。
あ、やっぱ知ってたんだ、キスマークの意味は。シーナは何気に思った。
だとしたら、今まで気づかんとか、どうゆうこったよ。寝込みでも襲われたんじゃないだろうな。もしそうなら、俺、ルックに殺される。
「っ!!!もうっ、あんときだっ。だから朝から皆おかしかったんだっ!!もーーールックのバカーーーーっ」
「ちょ、おいっ。って、ルックだって?」
シーナが呼びとめようとするも、既に真っ赤になった湊の姿はなかった。
どんな勢いで走っていったんだよ・・・。つか、ルックて。おいおい、やるな、ルック。意外に手、早ぇえな。
これ、絶対皆へのけん制だよな、と苦笑する。
しかしあのルックがねぇ。そん時の状況が知りたいぜ、とか呑気に思っているシーナ。
だがその後、先ほどシーナが湊のスカーフにふれていたところを何人にも見られており、シーナが湊にキスマークをつけた、などという噂が城内を流れる事になる。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ